ページ17 初めて見る顔
夏休みに二泊三日の沖縄旅行に訪れた謙介達。幼なじみで女優の永濱馨と再開した謙介はファッション雑誌の撮影現場を見学中、マネージャーの桐ヶ谷から馨が女優を目指した本当の理由を聞かされる。それを聞いた謙介は自分の不甲斐なさを痛感し、馨に声を掛けずに現場を去って行くのだった。そんな中、三日目の朝を迎える。
沖縄旅行最終日となる三日目の朝。時刻は午前7時30分をまわった。朝日が放つ神々しい光が謙介のいる部屋に差し込む。謙介は目を開けたまま放心状態でベットに寝転んでいた。
「結局、一睡もできなかった」
『昨日久しぶりにカオちゃんに会って興奮してたのもあるけどやっぱり一番の原因は遅くまでみんなに捕まってあれやこれやカオちゃんとのこと質問攻めにあったことだよなぁ。』
などと考えながら昨夜のことを思い出す。
~時を遡り昨日 pm.16:00~
馨と別れた一行は昼食を取ってホテルに戻り、夕食の時間まで各自の部屋で休むことにした。部屋に戻るためエレベーターを待っているとそこへ紗倉と瑞帆が合流し、一緒にエレベーターを待つことに。
二人は両手にパンパンの紙袋を抱え、重そうな表情をしていた。
「重そうだね。一つ持ってあげるよ。」
見兼ねた謙介が紗倉の持っていた紙袋を一つ手に持つ。
「すみません、ありがとうございます。」
充も瑞帆の紙袋を何も言わずに手に取る。
「ありがとう、充。」
謙介達も昼間に買った洋服などが入った袋を手に持っていたが、三人で分担したため片手が空いていたのだ。
「しっかし、二人共まあまあ買ったな。」
今にも破れそうな紙袋を見て呆気を取られる道義。
「何言ってるの、こんなのまだまだ序の口よ。あとでホテルマンが私達の部屋に四つずつ紙袋を持ってくるんだから。」
『ん? 、あとで紙袋を四つずつ持ってくるってことは二人で八袋。今持ってる紙袋が四つだから····』
「いやいやいや、いくらなんでも買いすぎだろ。」
頭の中で計算して出した数に道義は驚く。
「謙介君、そちらは充実していましたか?」
道義と瑞帆が口論している中で紗倉が謙介に質問する。
「んー、していたと言えばしてたかなぁ。」
歯切れの悪い曖昧な返答をする謙介。そこへエレベーターが到着する。音が鳴り、扉が開くとそれぞれが中へ入っていく。全員が乗ったことを確認した紗倉が階数ボタンと開閉ボタンを押す。
扉が閉まり、エレベーターが動き出す。各々が手荷物を持っているため中は方向を変えられない程の缶詰め状態になっていた。
「あっ、そうだ。実は俺たち····」
と突然なにかを思い出した道義がおもむろに紗倉と瑞帆に話す。
「えぇ!女優の永濱馨と会った?。」
「しかも永濱馨がミッキーの幼なじみって本当なの?」
狭いエレベーターの中で瑞帆と紗倉は叫んだ。突然大声を出されてびくっと肩をすぼめる謙介。気まずそうな顔をしながら瑞帆の質問に無言で頷く。
「ちょっと、それ衝撃的なんですけど。」
「驚愕の事実ですね。」
階数表記の数字が増えていく。もうすぐ最上階に着きそうだ。
「我々も最初は驚いたさ。観衆の前でいきなり彼女とハグをしだすんだからな。」
突然の充からの暴露。謙介は一瞬反応が遅れる。
「ハッ、ハグ!?。」
「ちょっ、ちょっと充、余計なこと言わなくていいから。」
不意の出来事に謙介はあわてふためく。
「あれは事故というか不可抗力というか。」
するとエレベーターが止まり、扉が開く。最上階に着いたようだ。
「さぁ、着いたよ。行こう、行こう。」
謙介は話の流れを断ち切るかのように皆に降りるように促す。皆が降りると扉が閉まる。
「現在の時刻は16時10分ですので18時にレストラン前に集合と致しましょう。」
集合時間を決めた一行は各自の部屋へと戻って行った。
部屋に入った謙介は両手に抱えた荷物を床に置き、ベットにダイブしたい気持ちを抑えながらソファに倒れ込んだ。
「だぁはぁー、疲れた。」
一日歩きまわった疲れと意外な人物に遭遇した疲れが今になってどっと出てきた。
だんだんとうとうとしてきた謙介はそのまま眠ってしまった。
~pm.19:30~
誰かの声とテレビの音で目が覚める謙介。すると目の前には紗倉、道義、瑞帆、充が部屋でテレビを見ていた。
「ん?あれ、皆どうしたの僕の部屋に集まって····。あっ、時間か。ちょっと待ってね。」
寝ぼけたまま起き上がり準備をしようとする謙介。
「ディナーならとっくに済ませたよ。」
「今、何時だと思ってんの?。」
そう言われて謙介はポケットからスマホを取り出して時間を確認する。
「今は19時30分·····えっ、19時30分!?」
謙介はスマホの画面を二度見した。驚きのあまり頭が真っ白になり、数秒間思考が停止した。
「待ち合わせの時間になってもいらっしゃらなくてスマホにかけても繋がらず、心配になったので黒瀬に頼んで様子を見て行ってもらったんです。」
「部屋の外から何度お呼びしても返事がなかったので仕方なくマスターキーで中に入ったところ倒れている謙介君を発見したとのことです。」
「それを黒瀬さんから聞いた私達は相談して先に食べてようってことになったの。」
謙介は事の状況をようやく理解した。と同時に後悔と懺悔の念が襲ってきた。
「うわっ、ごめん。いやっ、本当ごめん。」
謙介は何より自分自身が驚いている為、これが夢か現実かの区別がつかず、言葉がでてこない。
「別にそんな気に病むことじゃないよ。」
「今日はたくさん歩き回ったから疲れたのであろう。」
道義と充の優しい言葉に謙介もやっと平常心を取り戻す。
「もうすぐ頼んだルームサービスが届くと思うのでそちらを召し上がって下さい。」
謙介がソファから起き上がろうとしたその時、ふとテレビ画面が目に入った。
「それ何見てるの?」
「あぁこれ?君は桜を待つって映画。馨ちゃんが主演のやつ。」
とニヤニヤしながら話す道義と無言でこちらに頷く充。
「その映画って確か····」
「馨ちゃんが一躍有名になった作品よ。」
この作品は主人公が余命わずかのヒロインと出会うところから始まり、様々な出来事を通してお互いの距離が縮まって行きながら残り少ない時間を共に過ごしていくという切ない恋愛ラブストーリーだ。
「俺、この映画10回見て10回泣いた。」
「馨ちゃんの演技が切なさをより感じさせるんぞよ。」
「もう一人の主人公役の桐澤小海人君もかっこいいんだよね。」
「原作のイメージとぴったりで素晴らしい作品ですよね。」
四人それぞれが作品への想いを語る中、謙介は映画に釘付けになっていた。
『なんか自分の知っている人がテレビに出てるってなんか不思議な気持ちだな。』
そんなことを思いながら映画を見続ける。物語は中盤のヒロインの病状が悪化してしまうシーン。
謙介は届いたルームサービスの料理を食べながら映画を見続けた。馨の演技に思わず箸が止まる。そして映画はエンドロールを迎えた。
「うぅぅ、やっばりなんがいみでもいいはなじだなぁ。」
道義は鼻水をたらしながら号泣していた。充はそっとティッシュの箱を道義に渡す。箱からティッシュを3~4枚取り出して道義は鼻をかむ。
「こんな道義、初めて見たよ。」
「こう見えて道義は涙脆いからねぇ。」
テレビと直接つないでいるスマホを操作しながら語る瑞帆。
「次、なに見る?」
「じゃあ次はねぇ···」
このあとも五人は謙介の部屋で馨の出演した作品を観賞した。その間に謙介は馨についての質問攻めにあった。おかげで集中して作品を見れなかった。
気がつけば時刻は午前0時をまわろうとしていた。明日も早いことから四人は自分の部屋へと戻って行った。
謙介は四人が戻ったあとも馨の出演作品を一人で見続けた。そしてあっという間に夜が明けて時刻は午前5時を迎えた頃、少しでも寝ておこうとやっとベットに入ったものの眠れずに現在に至る。
~現在~
謙介はベットの上で後悔した。調子に乗って夜更かしなんてしなければよかったと。しかしいくら後悔しても時間は戻ってこない。
「ぅし、起きるか。」
謙介は起き上がりカーテンを太陽の光を全身に浴びた。今日もいい天気になりそうだ。
─To be continues─
転校したらスラっとした美女の隣になった件 VAN @loldob
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