10話
「これは、いったい?」
女の人は優しい表情のままこちらを見ていた。どれくらい過去の記憶を見ていたのだろうか。いや、あれは記憶ではない。私自身がいない場面まで見えていたのだから。
「どうでしたか。見たいものは見られましたか。」
私の見たかったもの。それは誘拐犯の顔ではなかった。
おじさんは、誘拐犯ではなかった、ということなのか。むしろおじさんも事件に巻き込まれた?お母さんは誘拐犯とつながっていたのではなく、巻き込まれたおじさんに感謝していた?おじさんは私を助けてくれた?お母さんは、私をずっと想っていてくれた?
「今見たのは、私の記憶ではありません。」
「記憶の断片がつながっていくと、真実が見えてくることもあります。推理とか、解釈にも似ていますけれど。」
「真実ですか。あれは。」
「私は香りを売るだけです。それをどう受け取るか、それはお客さん次第ですよ。」
今まで疑っていたお母さんが、もし、ずっと私のことを想っていてくれたのなら、私はもう取り返しがつかない。でも、これからのことは、まだ変えられるのかもしれない。
息子はだいぶ飽きていたようだ。私も母親になった。自分の母親のことは、解決させないといけない時期に来たということなのだろう。
お祭りの魔法か。真実かどうかはどうでもよいことかもしれない。
「本日はどうもありがとうございました。また機会があれば、お越しください。」
香り売ります 糸井翼 @sname
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