3話

「どうでした?お祭りの香りでした。」

「昔、母と歩いたお祭りを思い出しました。ぼんやりとしか覚えていなかったのに。」

「香りは記憶に直結しているんです。今のはお試しなのでぼんやりとしていたかもしれませんがね、私はお客さんから思い出を聞いて、香りをオーダーメイドして、売っています。思い出の香りを作りますよ。」

「いや、今でも結構はっきり思い出がよみがえりましたよ。えっ、すごい。」

驚く私を見て、女の人はにこりとした。まるで占い師、いや、これは超能力者に近いのではないか。

さっき浮かんできたお祭りの景色と、まだ若かったお母さんの優しい笑顔。これを思うと、胸が締め付けつけられた。お母さんの笑顔は、本物だったのだろうか。

「あの、忘れかけていた記憶を思い出せるんでしょうか。今みたいに。」

「忘れた記憶って、閉まった場所がわからなくなった小物みたいなもので、頭の中を探せば見つかるものなんです。思い出したいものがあれば、香りをきっかけに思い出せるかもしれませんね。ただ、もし、それをやるなら、できるだけ詳しくそのお話を聞かせてください。ぴったりの香りをお作りします。」

こんなオカルトみたいなことをやる自分も少し恥ずかしい。ただ、これで自分の心のわだかまりみたいなものがなくなれば、それはそれでいい。息子をちらりと見た。わたあめは上半分がもうなくなっていた。この子のためにもなる。きっと。

「他人に話したこともないんですけどね。」

「お祭りの夜なんて、一晩の夢みたいなものですよ。赤の他人にそういう話をしても問題ない日です。」

「小さい頃、小学生、三年生か四年生だと思いますけど。私、誘拐されたんですよ。」

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