4話

結構衝撃的なスタートだったと自分では思うのだけれど、女の人は優しい表情を変えないで頷く。誰にも話したくないと思っていたのに、もうこの人に話したい気持ちがいっぱい。ああ、この人はカウンセラーなのかもしれない。

「家に着く手前のところで、ランドセルを背負ったままで。」

「私の実家は工場をやっていたんです。小さい工場で、父が社長で、母が事務作業をやっていて。どれくらいお金があったのか、私は小さかったのでイメージできていなかったですけど、きっとお金があったんだと思います。」

「それで、誘拐されて。車に乗せられていたときは目隠しをされていて、もう、とにかく怖くて。で、気が付くと車を降りて、目隠しを外されて、ほこりっぽくて薄暗いところ、事務所みたいなところにいました。」

「そこには、見張りの男がいました。誘拐犯で顔をちゃんと見たのは、その人だけだったんですけど、誘拐犯って言えば、人相が悪い気がするでしょ?でも、その見張りの男は、どこにでもいそうな、むしろ優しそうなおじさんでした。体型はごつくて、父に似ていましたが、顔は優しそうだった、と思います。その顔だけがぼやけているようで、ちゃんと思い出せないんです。」

「その人が見張りをしながら、幼い私の相手をしてくれたんです。なぜかトランプを二人でしたり、食事も持ってきてくれて。怖かったんですけど、だんだんその人のおかげで落ち着いてきました。ちょっと遠い親戚が遊んでくれているような感じになっていました。」

「その犯人の顔を思い出したい、そういうことですか。」

彼女の問いに頷いた。

「あ、ちょっとだけいいですか。子供が。」

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