18日 星降る夜は
星降る夜は、弦の音がよく響く。
「なにそのポエム。きもっ」
娘の返しが容赦ない。
いやいや弾いてみなって。昨日とぜんぜん音が違うぞ。
「その語尾のぞって文字にしたら絶対カタカナのゾでしょ。あーきもいきもい。おじさん構文ていうんだよそういうの」
……最近の小学生はどこからそんな言葉を覚えてくるんだろう。小さい頃は天使だったのに。
「パパ、いいかげんギターの弦換えなよ。手が十円玉臭くなるじゃん」
十円玉て。
えっ、それじゃあお前さん、こっそりパパのギター弾いてくれてるのか。
なんだよーこのツンデレさんめー。
「だから言い方! 本当はベース弾きたいけど、家にアコギしかないからしゃーなしだよ」
おっベースに興味あるか。さすがパパの子だな。そんじゃあ……
「CD貸すとか言い出さないでよ。どうせ趣味合わないんだから」
はいはい。
「でも、さ」
ドアを半分開けて、娘は振り返った。
「●※◎のライブなら行きたい。クリスマスプレゼントまだ決めてなかったから、いいでしょう?」
え、●※◎って、ベースが過激に踊りまくるあのバンドじゃん。気にはなってたけど、地方公演来るの? イマドキ小学生、どっからそんな情報得てくるの?
「だーからそんな嬉しそうな顔しないで。パパと行くなんてまだ言ってないっ」
娘はドアからすり抜けて二階に駆け上がってしまった。
ライブ、誰と行くんですかムスメさん。
パパを置いていかないで。
よし、こうなったら妻も巻き込んで、親子でライブ参戦だ。娘は嫌がるだろうけど、小学生だけで行かせるわけにはいかない。
急いでPCを立ち上げようとすると、妻がスマホ画面をスッと見せた。
「遅い。情報戦はスピードが命なのよ」
恐る恐る画面を見ると、●※◎のチケットが三枚予約完了できたとのメールが。
「まったくあなたは、バンド時代から半テンポ遅いんだから」
そういう妻は、学生時代の顔に戻っている。
そうだった。今でこそ地味な会社員だが、学生バンドで出会った頃の妻は過激メイクの過激ベース、へっぽこギターの私は半テンポ遅いとよく叱られていたっけ。
すると娘の趣味は母親譲りというわけか。
いいや、絶対に父親譲りだ。遺伝情報というサンタからのプレゼントだ。
ありがとうサンタ。メリークリスマス!
ところでこのチケット代、支払いは誰の……あ、家族カードですか。
私の口座払いの?
ですよねー。
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