4日 地方自治体、観光UFOを招く
弟月町は地味である。金はない。
これといって観光の目玉もない。
県庁所在地から中途半端に遠く、交通の便も中途半端に悪い。というて古民家DIYだの就農体験だのを売りにできるほどの牧歌的な環境もない。
豪華すぎる寝台特急が県内で話題を呼んだ時は、秒で通り過ぎる通過駅になった。
隣の港町が巨大クルーズ船の寄港地に選ばれた時にも、見事にスルーされた。
ようするに華も実も知名度もない、モブの地方自治体なんである。
2020年の暮れ、「町おこし課」は頭を抱えていた。
お前ら若手がなんかやれ、アイディアを出せ根性を見せろと上からの無茶ぶりが過ぎる。だがその若手が出した企画は全てボツ。SNSでアイディアを募ったが、UFOを呼べだのなんだの突飛なものばかりで現実味がない。
予算も当然、ない。
無力感のあまり脳みそが乾燥芋になりかけた時、彼らの目はTVに釘付けになった。
「観光UFO、来る」
ダジャレみたいなタイトルだが、内容はインパクト大だった。
だだっ広い荒野広がるアメリカの田舎町に、親地球派で知られるナチャラ星UFOが観光目的で降り立ち、そのUFO見物にマスコミや観光客(こっちは地球人)も来るようになり、町はおおいに潤ったとのこと。
これだ。
寝台特急がなんじゃい、クルーズ船がなんじゃーい!
これからは宇宙が相手だ、うぇるかむ異星人!
一度はボツにしたUFO案の人物を呼び、具体的な話が詰められた。
むろん、異星からの観光船など前代未聞である。反発も当然あった。アンチ異星人、特に年寄りがうるさかった。
だが町おこし課の課長は血走った目で言い放った。
「地球人だろうが異星人だろうが、カネを落としてくれるのが良い観光客だ!」
かくして各方面に人脈を掘り手を尽くし、奇跡的に、ナチャラ星観光UFOを明年、弟月町に招くことが決定した。
ローカルのみならず大手のマスメディアが注目し、弟月町の名は全国に知られることになった。万歳三唱。町おこし課は鼻高々だった。
――今年2021年師走。
UFOはまだ来ない。
ナチャラ星と交わした公式文書には「明年」と書かれていた。地球暦に馴染みのない異星人に対する気遣いゆえであった。
だが彼らは失念していた。
ナチャラ星の公転周期はおそろしく長いのだ。
「明年」は地球時間に換算すると、およそ1000年後である。
町は『これは、1000年の未来に託す約束』という苦し紛れのキャッチコピーをひねり出したが、ネットでもTVでもむなしくスルーされ、やがて皆、飽きた。
町おこし課の課長は今日も空を見上げ、ため息をつく。
「1000年後の町おこし課に期待するしかないかぁ……」
むろん西暦3021年まで弟月町が、いや地球が存続していれば、の話である。
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