3日 世はこともなし

夜更けてサイレンが鳴った。

北側消防団だ。古いせいか音が少しひずんでいる。

すぐさまアプリを立ち上げ、火事がどこなのかを調べる。が、どこにも炎マークはない。消防車が出動する気配もない。


続けて別のサイレン。こっちはデジタルな音だ。

とすると、南側消防団だろう。

やはりアプリにはなにも記されていない。


北側サイレンがアォォーと鳴る。

すかさず南側がウィィーと鳴る。

被せるように北がアーォーォー、負けじと南がウィーウィー、つられるように隣の消防団のサイレンが、海岸近くの本署が。


火災案内の電話応答はテンプレの録音音声だ。つまり町内のどこにも火災はない。

しかし伝言ゲームのようにサイレンは鳴り響く。


「あーもう、あいつら人が居ないのをいいことに吠え比べしやがって……」

兄は舌打ちしながら消防団の法被をひっつかみ、暗い戸外に出かけていった。


まあよくあることだ。

暇を持て余したサイレンたちが遠吠え合戦するのは、デジタルアナログ関係なく本能だろう。

あまり叱らないでやってほしい。火事がないのはいいことじゃないか。


ここは弟月町。


世はなべて事もなし。



 


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