2日 つとめてBrigadoon
ふゆは つとめて。
そう言い切った清少納言はやはりすげーやと思う。冬は早朝こそがいいんだ。
朝、一歩外に出て冷え切った空気を吸い込むと、鼻の奥がきぃんと冷えて神経が研ぎ澄まされる。ついでに前頭部が痛くなる。
冷たいモノを食べてアタマ痛くなるのをアイスクリーム頭痛と呼ぶように、僕はそれを「つとめて頭痛」と呼ぶ。
つとめて頭痛が起きる朝は、運が良ければ雲の上に――
見えた。
あれはこの世のものか、過去のいつかの時代か。天空に町が現われる。
ほんの数秒間だけ、逆さまに映る平安絵巻。
子どもの頃、初めて見た時はその美しさに驚いた。でも誰に聞いてもそんなものはないよと笑われ、子どもらしい空想だねと聞き流され、いつしか僕は口をつぐんだ。
まあ雲の上に? 逆さまに町が現われ? しかも平安調? 誰が信じるか。
せいぜいアタマがおかしい妄想野郎だと思われるくらいだ。
けれど今、この目に映るのは妄想なんかじゃない。朝焼けに輝く寝殿造りの欄干、擬宝珠まで見える。おおい、もう数秒消えないでくれ。急いでスマホを向けるが、今日も何も映らない。
100年に一度現われるというBrigadoonはスコットランドの伝説だが、ここは21世紀ジパングの、ザ・弟月町。
寒い冬の朝、つとめて頭痛の僕にだけ見える、天空の絵巻。
納言先輩、あんたならこんな時、気の利いた一首を詠むんだろうな。
でも僕にそんなセンスはない。
せいぜいこうして駄文に記しておくだけだ。
2021.12.2
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