14日 どっちだ

ローカル鉄道の旅をして、途中下車してみた。

確か小学生の頃、短期間だけ住んだことがある町だ。


数年前に駅前が再開発されたとかで、記憶の中の町とはまるで様子が変わってしまっている。

見覚えのある景色の断片もある気がするけど、まるで知らない町のようでもあり。

たった20年、されど20年。これほど変わってしまうと寂しいものだ。


さんざん歩いても、覚えがあるような、ないような通りばかりだ。

いいかげん歩き疲れた頃、ふたつの路地に挟まれた角に、昭和から時が止まったような純喫茶を見つけた。

こういう店なら町の変遷を見守ってきたはずだ。


入ってみると、プンと独特なにおいがする。

使い込まれた木のテーブルと椅子。

レトロな照明。

いらっしゃい、と初老のマスターが声をかける。


僕は珈琲を頼み、他の客がいないのをいいことに、いろいろ聞いてみた。

 昔の駅舎は木造でしたよね。

 商店街はL字型で、角にお寺がありましたっけ。

 小学校の南に図書館があって……

懐かしい記憶と照合したい思いが余って、つい喋りすぎたかもしれない。


黙って珈琲を淹れていたマスターは、僕の話が途切れるのを待って、申し訳なさそうに言った。


「ああそれ……お客さんが言ってるのって、隣町の話じゃないですかね」

「となり町?」

「よく間違われるんですよ。『弟月おとつき』と『月弟つきおと』。なんでこんな紛らわしい町名にしちゃったんですかね」


なんてことだ。とんだ赤っ恥だ。

となり町なら違和感があるのも当たり前だ。

じゃあ僕が子どもの頃住んだのは……

弟月おとつき』と『月弟つきおと』あれ、どっちだったっけ。


「どちらにします?」

 マスターは口髭の下に笑いを含んだような顔で、二面の窓を指さす。

 それぞれの窓に映る景色は、まるで左右を反転させた画像のようにそっくりだ。


僕が住んだのは……どっちだったっけ。



記憶がバグってきた。










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