11日 へいさらばさら

 ケサランパサランは謎の生物として有名な毛玉だ。

 けどうちの毛玉は有名でもなんでもない。


「ばあちゃん、まーたこんなに増やして」

 私はため息をついた。

 こたつの上にいるのはケサラン……じゃなくて、毛糸のボンボン。ニット帽子の先っちょについてるような、アレだ。もっさり山盛りある。


「増やしとらんよう。勝手に増えるんじゃ」

 ばあちゃんは涼しい顔で毛糸を繰っている。

「ボンボンが勝手に増えるわけないでしょうが。退屈だからってこんないっぱい作ってどうするの」

 ばあちゃんは聞こえないふりして、変な歌を歌っている。 

 へいさらばさら、へいさらばさら。


 ああ、元はといえば、うっかり私が褒めたからだな。

 ばあちゃんが器用にボンボンを作るのを見て、上手ねーとか適当に褒めたもんだから、使い道もないのにいっぱい作って。今やボンボン量産ばあさんだよ。ああ、褒めるんじゃなかった。


「桐の箱に入れて、おしろい振っとくと増えるんじゃ」

「うちには桐の箱なんかありませんー。はいはい片付けようねー」

 私はせんべいの空き箱を持って来て、ボンボンの山を容赦なく突っ込んだ。

「おしろいもないぞよ。天花粉でも振っとくか」

 ばあちゃんは自分でうけてへらへら笑っている。天花粉なんて言われても通じないよ。ベビーパウダーでしょ。

 その後、せんべい箱のことを私は忘れていた。


 翌朝、そうだ母からもちょっと注意してもらおうと思い、例のせんべい箱を開けた私は、ゲッと叫んだ。

 増えている。ボンボンが、昨日の倍くらいに増えている。

 まさかばあちゃん、夜の間に量産した? とも思ったけど、箱は箪笥の上に置いてあった。腰の曲がったばあちゃんには届かないはずだ。

「ほほーん、増えたか。おしろいより天花粉のほうが栄養あるんかのう」

 後ろからのぞき込んだばあちゃんが面白そうに言う。だから天花粉じゃなくてベビーパウダー。それに栄養てなによ。

「もうっ、禁止! ボンボン作りは禁止! これ以上増やしたら怒るからね」

「いやいや、わたしゃ作っとらんて。勝手に増えるんじゃあ」

 ばあちゃんはまたへらへら笑って、例の歌を歌った。


 へいさらばさら、へいさらばさら。


 ◇  ◇  ◇


 あれから毎日、毛糸のボンボンは増え続けている。本当に、勝手に増えるのだ。

 私は怒るのをやめた。

 ようは、使い道を考えりゃいいのだ。


「おいっ毛玉!」

 床の上に溢れたボンボンに私は命令する。

「クッションになりなさい」

 ボンボンたちはおとなしく詰め物になった。うん、ぎゅうぎゅうに詰め込んだら45cm×45cmのクッションカバーで丁度いいな。


 今、我が家のこたつの周りはクッションだらけだ。

 もちろん中身は例の毛玉、じゃなかった、ボンボンたち。

 多少ベビーパウダーくさいのをがまんすれば、なかなか悪くない。


 へいさらばさら、へいさらばさら。


 このままボンボンが増え続けたらどうなるかな。まあいいか。

 今度は布団にしてやろう。

 



 



 


 

 





 

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