12日 こびとさん
朝は小鳥の声で目覚めますなんて言うとメルヘンちっくに聞こえるかも知れないが、田舎の現実はそんないいもんじゃない。
キィーキィキィ、今朝もけたたましい声で起こされた。
どうせいつもの百舌どもだろう。庭の柿の木で騒いでいる。
縄張り争いなのか餌の争奪戦か。秋からはヒヨドリも参戦してますますうるさい。 オマエら少しは慎め。
すっかり葉の落ちた桜の下を歩いていると、干からびたカエルが落ちてきてぎょっとすることがある。カナヘビやトンボの時もある。いずれも串刺しドライフーズ。
これは夏の間、モズが木の枝に刺したやつだ。いわゆる百舌の
ホラーみたいな悪趣味は勘弁してほしい。自分で捕ったんなら忘れずに食え。自然界の食品ロスだ。
頭の上でジュジュジュと騒ぐ百舌を睨む。と、木の枝になにやら赤と白のモノが。百舌はしばらく嘴でつんつんしていたが、食べる気を無くしたのか飛び去った。赤と白はまだ動いている。なんの生き物かしらないけど、かわいそうにおまえもいずれはドライフーズ……と思う先で、そいつは人語をしゃべった。
「ばかもの、早う助けんかい!」
はあ。しゃべる早贄。
しかしよく見ると確かに人の形だ、思いっきりミニサイズだけど。クリスマスツリーに飾るモール人形みたいな赤い服に白い髭。
いやこれは……アレか? こびとさんというやつか?
幸い、枝はそう高くない。私は傘の柄を使い、小枝ごと折り取ってこびとさんを救出した。
「ばかもの、もっと丁寧にせんか!」
知ってる、知ってるぞこういうやつ。「紅ばら白ばら」の童話に出てくる、妖精だかなんだかのひねくれこびとだ。
私は赤い服のこびとさんをつまみ上げて意地悪く言ってやった。
「串刺しにされなくて良かったねえ。でも白いお髭が枝に挟まったままだよ」
「わかってるなら早う外せ、この役立たずめ!」
「ほぉん? 命の恩人に対してそんな言い方アリ? このまま百舌に返そうかな。それともヒヨドリがいい?」
こびとさんは聞き取れないほど早口でキィキィ声になり、じたばた暴れた。
「あんまり暴れるとお髭をちょんぎるよ」
今度はドスの聞いた声でおどかしてやった。どうせ髭を切って助けてやっても悪態つくんだろうけど。
するとこびとさんは髭を押さえ、たのむ、髭だけは……と小声になった。
あらあら。案外よわっちいのね。それとも髭がアイデンティティーなんだろうか。
「助けたら、なんかくれる?」
「……このごうつくめ」
「人間なんてみんな業突く張りだよ」
あんまりからかうのも可哀想なので、私は小枝をぺきぺき折り、こびとさんを解放した。白いお髭はなるべく傷めないように気をつけたつもりだ。
自由になった途端、このごうつくめ! とわめきながら、こびとさんは風の中に消えていった。
数日後。
商店街を歩いていると、クリスマスツリーに見覚えのある飾りがあった。
赤い服に白いお髭のこびとさん。
「なんだ、童話世界は辞めてこっちに再就職したの?」
こっそり話しかけたけど、こびとさんは知らんぷりだ。
ふふん、お仕事中だもんね。
まあいい。それより福引き券で商店街のガラガラポンを回そう。
ころん。
特賞の金色が出た。
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