21日 弟月町小史⑥ もっさんの話 後編
どこまで話したかのう。ああそうじゃ、高等学校か。
定時制に通うことが決まった頃、わしとシゲやんは寮に移った。三交代の勤務にするためじゃ。昼間だけより給料がええからな。まだまだ食うのが精一杯の中の時代よ。ちょっとでも多く家に金を入れたかった。
三交代はな、朝から夕の昼勤、夕から夜中の夕勤、夜中から朝の夜勤じゃ。姉の子らも一緒に雑魚寝するような家では、夜勤明けにゆっくり寝ることもできん。シゲやんも、皆が畑仕事しよる昼間から寝るのは気が引けるじゃろう。寮のほうが都合がええ。
寮は面白かったぞ。
一部屋四、五人ずつ、同じ階の者は同じ時間の勤務に組まれとる。寝る時間も一緒、メシの時間も一緒じゃ。むさくるしい男ばっかり年も似通ったどうし、くだらん遊びで騒いで舎監によう怒られた。
昼勤のときは仕事終えてすぐ学校。夜勤のときは学校終えてからちょこっと仮眠して仕事。若かったんじゃのう。
けど夕勤のときは困った。夕方四時には現場に入らにゃならんから、どうしても出られん授業があるわなあ。
国語や社会なんかは
そのうちに寮内で『勉強会』いうもんができて、同じように定時制に通う者どうし、自分が出られんかった授業を他の者に聞いて、教え合いこしよういうことになった。ナントカ会、ナントカ同好会は寮の中にいろいろあったぞ。野球、相撲、芝居に合唱、かるた取り。『猪会』いうて裏山のケモノ道ばっかり走る変な会もあったし、『文化的釣りの会』ちゅう、ただの釣り好きが集まった会もあった。
世の中どんどん変わりよるから、なんでもええからなんか新しいことをしよる、という気分になりたかったんじゃろうな。
わしらの勉強会は寮の食堂を使うたから、女子も参加しとった。賢そうな子も
四年経って無事に卒業できた日に、わしとシゲやんはざんばら先生のとこに卒業証書を見せにいった。先生が定時制に行くよう勧めた教え子の中で無事に卒業できたのは、実は半分もおらんかったらしい。みんなほれ、家の事情とかいろいろあるんじゃ。ざんばら先生は、鬼瓦みたいな顔で男泣きに泣いてくれてなあ。似合わんのういうて、シゲやんと笑うたもんよ。
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