宇宙、辺境、猫、図書館、磁場嵐、僧侶のクローン。
魅力あふれる設定の中にシニカルなテーマが落とされ、倦怠感を纏った物語が動き出します。
この独特の空気感は、この作品でしか味わうことができないでしょう。
宗教ってなんだろうねという問いかけと共に本は強いという主張がされている(ように思う)のですが、その辺りの「尖りがち」なメッセージが孤立せず物語に溶け込み、読み終えたら理解と解決が同時に来る素晴らしい構成となっておりました。
問い掛けの答えは作者側が提示しないという投げっぱなしの作風も、大変好みでした。
SF好きな方はもちろん、テーマ性を重んじる方にも強くお薦めします。
あっ。単純に猫が好きってだけでも一見の価値ありです。
本に貴賤はない。知識は誰にでも等しく披かれるものである。
とある辺境の星にその塔はあった。
知識の塔。そこには宇宙の到るところから集められた本が所蔵されている。管理者はひとりの男と《猫》――そんな知識の塔に突如として訪問者があった。何十人もの屈強な僧。彼らはいう。この塔に収蔵されている書のひとつに、彼らの信仰に不都合もとい不愉快な記述がある。故に焚書する、と。
読みやすさと毒の権衡がなんともまあ、素晴らしい。……表現について多様な議論がされる現在。誰かにとって不快な表現を抹消する=本を焼く、ということをあらためて考えさせられました。
本を愛する御方、そして猫を愛する御方に読んでいただきたい素敵な短編です。