ルビンの壺

洗練された語彙が織り成す煌びやかな錦繍のような作品でした。語り口はサラリと軽快ですが、その裏には、ギラリと鋭いブラック・ユーモアが秘められています。仏教世界の曼荼羅と科学現象のオーロラが重なり、危ないまでの妖しい風味を醸し出している、と感じました。「宗教的陰謀による焚書」という冷や汗をかいてしまうような題材を取り扱っているはずなのに、この不思議な飲み込みやすさはどこからやってくるのだろう。それは作者様が備えている語彙力の鮮やかさが大いに関係しているように思えました。

胸が騒ぐような展開が続く中で、このユーモラスな猫ーー「アルカディア」が果たす役割が面白いのです。ちょっとだけ間の抜けたおしゃべり猫。でも、しっかりとした策士でもあるのです。飄々としたアルカディアの振る舞いは、『不思議の国のアリス』に登場するチェシャ猫を彷彿させます。なんとも愛くるしいマスコット・キャラクターに仕上がってます。

この小説はオーロラの描写に始まり、オーロラの描写に終わっており、美しいコントラストをなしています。まるで、『ルビンの壺』を思い起こさせるような対称的な構造です。美しい構図に込められたブラック・ユーモアはまさしく、文章のトリック・アートと呼ぶに相応しいと思えるのです。光に透かして見たり、掌に載せて見たり、様々な角度から読み味わいたい逸品でした。

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