「この本を探しているのですが(分かるな?)」「(お出口は)こちらです」

 その身に宿す功徳は、数知れず。……否、それを数えたからと言って、善し悪しの物差しにはならないのでしょうけれど。その研鑽の賜物は人々にとって、とてもありがたい説法として賜る物となっていて。文字通り「重宝」されているのだと思います。が、まぁ宗派の違いがあれば、響かないのもやむ無しではありますね……。何を信じるかは、人々に保障された自由ですからそれはそれ、ということで。
 前任者が積み上げた効率的な仕様のおかげで、重労働ながら軽作業ともいえる矛盾しているようで、でもちゃんと地に足がついている感覚もあるようなそんなお仕事。棚に本を収めるように、そっと押し込むだけの。わずかな休息を破った、僧侶たちの登場は何事かと思い、ハッとしました。数十人も押しかけてくるとはただ事ではないですね……。いや本当ですよ。寝耳に水、どころではなく、寝耳に鉄砲水くらいの衝撃でしたよ……。鼓膜が破れなくて良かったものの……(「鉄砲」水だけに
 検閲……なんて優しいものではなく、焚書をお望みですか……。主人公側に燃やさないという選択肢がないのと同様に、僧侶側には燃やすという選択肢しかない……。当たり前のように議論は平行線……ともいかないですよね。向こうは数の暴力もある。磁気嵐という自然すら味方につけている。多勢に無勢。状況を思えば、結論は論ずるよりも先に決まっていたのかもしれません。主人公の返す一言にも気圧されない僧侶。『お願い』という言葉に、妙に後ろ髪をひかれましたが、むしろ今は早々にお引き取り願いたいと思いながら、読み進めました。……その熱線銃……おもちゃだったり、しないですよね? なんて淡い期待も込めつつ。
 書庫に入るなりすり寄ってきた茶トラのメス猫。……この猫……アルカディア、喋る! 可愛い!
 ってちょっと僧侶! 熱線銃落とした拍子に、熱線が照射されるとかやめてくれよ! 万が一にも当たることがあるなら、焚書をお望みの例の書物にピンポイントで当たってくれよ! と内心思っていたのですがどうやらセーフティが働いてくれたようで何よりです。
 ほどなくして、例の書物を探し出してきたアルカディア。本側が僧侶への面会を拒否……アルカディアにしかわからない感覚は、とことんまで研ぎ澄まされ、本の「あいだ」に存在する何かを敏感に感じとっているのかもしれませんね。
 やはり、熱線銃は本物でしたか……淡い希望が泡と消えました……。が、書物の存在は一冊にとどまらない事実は、僧侶にとっても意表を突かれた模様。(こちらとしては、僧侶の隙をついて、なんとか逃げ出したしところではありますが……)
 次なる本を求めて、書庫を漁る僧侶。そんな中、お目当ての本を開いた瞬間、影に飲まれて跡形もなく、飲み込まれ……。僧侶の「僧」の字にも「日」が入っているというのに、影に飲まれるとはなんとも皮肉な話ではありますが、まぁそういう部分も含めて此度の騒動は影に葬られるのでしょう。本のページを閉じるように。
 焚書……いや、憤書とでも言いましょうか。書物を火にくべようとすれば、書物の怒りを買い、憤った書物の天罰が下るという。
 この先の結末は、きっとキャンプファイヤーのように燃え上がえり、しかしそんなロマンチックな展開とは裏腹に。本に挟む栞のように。そっと、ひっそりと。気付いたら、灰になっていて、風に吹かれて飛んでいき、跡形も残らない。そうですね……磁気嵐の中にでもまぎれるような、そんな終わりを迎えるのでしょう。

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