私がこの著者と出会ったのは、私の持つ勝手なレビュー企画で優秀作として著者の作品を取りあげたことに始まる。物々しいお役所用語によって彩られたSF作品、ある意味異質な作品を書く作者であったことを思い出せる。
それは古典的なSF作品に新たな光を当てた作品としてひたすら眩しいものであった。
そのあとも著者の作品をほぼ読破し、洒落た作風と諧謔表現の上手い、そして読んだ後に何か心に残していく、そういう作品の著者だと認めたのだ。
さて、今作は日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト2024というpixiv主催、日本SF作家クラブ共催のウェブコンにて最優秀賞を獲得した作品である。
選評では日経星新一賞を二連覇した関元聡が本作を絶賛。また久美沙織らSF作家が太鼓判を押す作品となっている。これについてコンテストの小冊子が通販で買えるので各自お求め頂きたい。
では、本作の良さについて語ろう。
本作はロボットであるアス、そして元教師のマスターのふたり登場人物しか出てこない。
シンプルな構図ながら、そこには彼らの時間がたしかに存在している。時間とは物語であり、そこに延長される未来も含まれている。未来において叶わなかったことを描くというのはSFならではであろう。そういう意味で本作の言いようのない切実な思弁性には打たれるだろう。
ロボットであるアスが後半書き出すストーリーは書くことに何か特別な思い入れのある読者であれば心動かされるに違いない。
また書き出しである一文が結いでふたたび登場し、読者にも「わかる」構造になっているのも憎い演出である。
本作に出てくる機械知性は人間的すぎるという意見ももっともだが、昨今生成AI問題などに揺れる現代において機械知性と人間の善性を問う傑作として本作を推したいと思う。
元・国語教師の老翁と、アシスタント・ロボットのお話です。
マスターはロボットであるところの「私」に日記をつけるように申しつけ、あまつさえ点数を付け出します。
「私」は点数の低さに納得がいかず、試行錯誤していくのですが――。
異世界ものでもイノセントものでも、「私たち(読者)にとってはある意味常識であるものを、登場人物は知らない」というギャップから、面白おかしく、ちょっと嫌な感じで言うとやや上から目線でニコニコ楽しめるお話ってあるじゃないですか。それです。
それなんですけどね、すごくなんというか、エレガントなんです。
ロボがね、良いんですよ。これどっかで買えるのかな?紹介して?と思ってしまいました。
そしてまた、マスターもね、身寄りも家族も無い「お一人様」なんですけど飄々としていていいんですよ。
お話を通じて、学ぶこと・教えること、そういう連綿と続いてるやりとりのなんというか、嬉しさというかそういうものが、すごくいいなあと思いました。
上から目線で読んでてすまなかった!アスさん!アンタ最高のロボだよ!うちに来ないか!
そしてね、タイトル、めちゃくちゃ素敵なんです。
花。花はいきなり咲くんじゃなくて、種をまいて育てるものですもんね。マスター?
ロボものがお好きな方、先生と私もの(?)がお好きな方、そしてそうでない方も、ぜひ。