第32話 コール
翌日の早朝、俺たちはダンジョン前に集合して情報を共有していた。ユリとサシャは暗雲の魔女のことについて、このダンジョンのことについて知らない。
俺の前世のことは……言わなかった。
今はそれよりも集中すべきことがあるからだ。
「第五階層までは踏破している。とりあえず、転移魔法で一気に六階層目からスタートするぞ」
言うと、彼女たちは頷く。
……少しばかり緊張してきた。
エレア先生ならともかく、彼女たちを守るムーブをしなければいけないからだ。守れるだろうか。
いや、今は彼女たちを信じるべきだ。
ユリは俺の筋肉パワーを与えているし、サシャは戦略を練るのが得意だ。
なら俺はその二人の素質を活かして戦う。
それがベストだろう。
せっかく人数が多いのだ。
こっちは三人どころか四人もいるのだから。
よし、行こう。
そう思った時のことだった。
「あれ。待ってねぇ」
エレア先生が耳に手を当てる。
きっと〈
最初は明るかった表情が次第に真剣になってくる。
これは……決していい報告ではなさそうだ。
「はい、はい。分かりました。確かガルドって……」
ちらり、とこちらを見てくる。
どうやら俺関連のことらしい。
ユリとサシャは状況が飲み込めないらしく、俺とエレア先生を交互に見て不安そうにしている。
「はい。伝えておきます。はい、それでは」
そう言って、彼女は魔法を終了する。
俺の目を見て、落ち着いて聞いてと告げる。
「トレイ伯爵領が半壊しているらしい。……いや、壊滅に近いか」
俺は、正直やっぱりなと言った感じだった。
別に驚きもなにもしない。
ただ、領民が心配だ。
「領民たちは大丈夫なんですか」
「ああ。一応全員が避難しているらしい。ただ、入れ替わりに罪人たちが蔓延っているらしいがねぇ」
そうか、と。
なにかあった時のために、避難経路用の結界の作りをしておいてよかった。無事避難は成功してくれているらしい。
「でも魔物の様子がおかしいらしいんだよぉ」
「と言いますと?」
事実かどうか怪しいのだが、と付け加えて、
「等しく目が赤く、一度死んだ形跡があるらしい」
言われ、すぐに思う。
そして発する。
「暗雲の魔女関連と考えていいんですね」
「うん。それでいいと思う」
やはり、彼女は一からゼロになったものを一に戻す魔法を会得している。
しかし……おかしい。
「それなら彼女はここから一度出ている……と考えていいんですかね」
しかし、エレア先生は首を横に振る。
「ロット……は知っているよね」
「ロットですか? ええ、もちろん」
少しだけ言い淀んでから、
「犯人はその、ロットだ。彼は、間違いなく暗雲の魔女と接触している」
と、エレア先生は淡々と述べたのだった。
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