【書籍化】ゴミ以下だと追放された使用人、実は前世賢者です~史上最強の賢者、世界最高峰の学園に通う~
夜分長文
第1話 転生者、追放される
「お前は使用人としてゴミ以下だ!」
「トレイ伯爵様が仰っている通り、あなたはゴミ以下です。分かっていますか?」
俺、ガルドは幼い頃にトレイ伯爵に拾われ、十五まで使用人として働いてきた。
しかしだ。俺は今、トレイ伯爵ご本人様と執事長に罵られていた。
朝早くに起こされ、伯爵の部屋に通されたかと思えば、いきなりこういう状況になったのだ。
「洗濯はできない。掃除もできない。そんな者に価値があるわけないだろう!」
「ええ、仰る通りです」
無精髭を生やしたトレイ伯爵は唾を撒き散らしながら吠え、執事長はメガネをくいと上げながら同意する。
確かに俺は使用人でありながら、家事などはしていなかった。
しかし、それ以上に重要なことがあったためにリソースを割くことが出来なかったのだ。
「俺はこの領地を魔物からの侵略を防ぐため、日々結界を張って危険を防いできました。それに、万が一侵入したとしても危険と判断した場合は倒してきました。それなのに、そんなこと酷いじゃないですか」
俺は、自分にできることを精一杯してきたつもりである。
少しでも伯爵に恩を返すために。
だが、トレイ伯爵の怒りは止まらない。
「そんな嘘を吐くな! お前はどうせ外に出てサボっていただけだろう!」
「その通りでございます」
どうやら彼らは俺がサボっていたと思っているらしい。
まったく、辛いものだ。
「お前のようなゴミは必要ない! さっさとこの家を出ていき、野垂れ死んでおれ!」
「ええ。仕事もできないあなたには生きている価値などございません」
なかなか言ってくれるじゃないか。
……しかし、困るな。
俺は『今の時代』の常識をあまり知らない。確かに領地を護るために家の外には出ていたが、市民と接することはなかったのだ。
考え込んでいると、バンと扉が開かれる。
トレイ伯爵の息子であるロットであった。
嬉々とした形相を浮かべているなと思っていると、唐突に口を開く。
「お前、今日で出ていくらしいな! 最後にお前にしてやりたいことがあるんだよ!」
そう言って、俺に向けて手のひらをかざしてきた。
「〈
放たれる火の球。もろに受けるが、その程度ではもちろん傷はつかない。
だが、ロットは満足したようで。
「ふははは! どうだオレの魔法は! さぁ、さっさと出ていけ無能が!」
はぁ。彼らには感謝していたのに、なんだか残念だ。
「分かりました。……どうなっても知りませんよ」
最後に一応は忠告しておいた。
「なにを言っているんだ! お前がいなくなったところで、なにも変わるまい!」
これ以上は無駄そうだな
そう思った俺は踵を返し、屋敷を出ていく。
しかし、あれだな。
もともと、トレイ伯爵は使用人と言う名の奴隷として育てるつもりだったらしいから食事も貧相なものだったのに、よくここまで育ったものだ。
我ながら、強靭な体に魂を宿したらしい。
まあ、俺が――転生する以前の体の方がもっと屈強だったが。
六百年前のことだ。俺は世界の隅々まで冒険し尽くし、魔物を狩り続けていた。
いつしか賢者となり、今度は世界の秩序を護る立場に。
だが、自分の時間が取れなくなったのだ。
やはり、立場が上がれば上がるほど公務と言うものに縛られるものだ。
なので俺は一度転生し、新たな時代で生きることに決めた。
「まさか、使用人として縛られることになるとは思わなかったが」
頭を掻きながら、街中を彷徨う。
ふむ。どうやらこの時代の人々は自由に魔法を使うことができるらしい。
前世では、魔法は貴族階級しか扱ってはならない神聖なものだった。
しかしどうだ。今は洗濯や料理。全てのことに魔法を駆使している。
いやぁ、いい時代になったものだ。
俺は市民にも魔法の知識を与えるよう推進していたからな。
前世では叶わなかったが、どうやら俺の尽力は成功していたらしい。
とりあえず、どうしようか。
自身の職業やステータスを確認してみたところ、しっかりと『賢者』になっていた。引き継ぎは無事、成功しているらしい。ほんの少し前は、それに加えて『使用人』もあったのだが、今はもう消えてしまっている。
このステータスだと、冒険者で稼ぐのが一番手っ取り早いだろう。
しかし困ったな。
悪知恵の働くトレイ伯爵のことだ。
今頃、伝達魔法でこの領地の全ギルドに『ガルド』の冒険者ライセンスを発行するなと根回ししているだろう。
「わぶっ」
悩んでいると、突然視界が真っ暗になった。
どうやら紙のようなものが飛んできたらしい。
手にとって、内容を見てみる。
『レミリオン魔法学園、生徒募集』
ほう、学園か。
確か前世では学園になんて通わず、即冒険者になっていたからな。
場所は……王都か。名前にここの国の名前が入っているから、国家が運営しているのだろう。ふむ、興味が湧いてきた。
とりあえず〈
……どうやらここから東の方にあるらしい。
距離からして、馬車で一日ほどってところか。
「募集期限が……今日か。それも正午まで」
とりあえず急ぎで向かった方がよさそうだな。
手のひらを眼前にやり、
「〈
目の前に、人一人ぶんくらいの魔法陣が出現する。
「おいおい……なんだあれ」「あれって魔法……なのかな?」
道行く人がぼそぼそとなにか呟いている。
別に、平民にも魔法が解禁されているのだから不思議なことではないだろうに。
まあいい。
とにかく急ぐか。
俺は、魔法陣をくぐって王都へ向かった。
───────────────────
『あとがき』
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