第26話 邂逅(ロット視点)


 ロットは今、森の中を彷徨っている。

 パーティーメンバーから強いられる業務に耐えきれなくなったからだ。


 しかし、なんという不幸だろうか。いや、彼にとっては幸運というべきなのか。


 そこはタタラの森であった。

 朝だというのに薄暗い森の中を必死でかける。


「くそくそくそ! どうして俺がこんな目に! あれもこれも、全てガルドのせいだ!」


 ロットは『憎しみ』を抱いていた。

 だが、それは普通のことだ。


 誰だって、憎しみという感情は抱く。

 人間、その他知的生命体はそのような作りをしている。


 ただ場所が悪かった。

 ここはタタラの森。


 『憎しみを礎に動く、暗雲の魔女』関連の場所。


 ロットは息も絶えたえで走り続け、ついには倒れてしまった。ろくに食事も摂っていなかったのだ。誰だってそうなる。


「憎しみを感じるわ……。私と同じ、同じ人に抱いている憎しみ」


 ロットは残された体力を使い、どうにか顔をあげる。

 妖艶な声に半ば魅了されながら、ロットは見据える。


 件の、魔女を。


「だ、誰だ……」

「誰って知らないの? 勉強はしておいた方がいいわ」


 とはいうものの、彼女は名乗らない。

 ただ、くつくつと笑っているだけ。


「あなた、ガルドってやつを憎んでいるでしょう……。ふふふ」


 ロットは驚愕した。

 声すらだすのが苦しいのに、ハッと発声してしまったくらいに。


「憎んでいる。ああ、憎いさアイツが! アイツのせいでめちゃくちゃだ!」

「そうねそうね。もう、めちゃくちゃ。私もよ」


 言って、彼女はロットに手を差し伸べる。

 ロットは怪訝な表情をするが、不思議とこの人には警戒心は抱けなかった。


 アウトローの、手を握った。

 握ってしまった。


「ぐ、ぐあああああああ!!!!」


 刹那――身体中に走る規格外の魔力。

 体が燃え上がりそうなほど熱い。苦しい。痛い。


「あが、あが、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ロットは地面でのたうちまわる。

 石に皮膚を傷つけられ、血が出るほどに。


 ……しかしどうだ。


「あ、あれ」


 急に苦しみから解放されたのだ。

 体が軽い。魔力だっていつもの倍、いや何百倍もの量を感じる。力が、湧いてくる。


 それと同時に、『憎しみ』がさらに湧いてくる。


 血塗れだと言うのに、ロットは平然と立ち上がった。

 アウトローはそれを笑顔で見据える。


「一緒にこの『憎しみ』を発散しましょう? 私たちは、もう仲間」

「はい。アウトロー様」


 名前も聞いていないのに、ロットの口から自然と溢れる。跪き、彼女の掌を握る。


「近々、彼らがこのやってくるわ。一緒に憎しみを解放しましょう?」

「もちろんです。それと、少々時間をいただいてもよろしいでしょうか」


 ロットは試したかった。

 この溢れ出る力を。この魔力を。


「いいわ。領地に戻るのでしょう?」

「はい。力を試したく」


 そう言って、ロットは転移魔法でトレイ伯爵領へと向かった。


 しかし、それは伯爵領にとって凄惨な事態を招く。

 それもそうだ。


 ロットは今、正気じゃない。

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