第39話 音楽


 さて、今回は音楽の授業だった。

 音楽理論を研究しているという者が授業を担当しているらしい。サブ教科であるため、月に一度か二度しかないらしい。


 であるため、今回が初の授業だ。

 音楽室に通された俺たちは、教室と同じ配置に並べられた席に座る。


「楽しみだね!」

「ですね!」

「ああ」


 音楽に触れることはあまりなかったが、一応ピアノ程度なら弾ける。マニアックな楽器になってくると、音を奏でることすら怪しくなってくるが。


 さすがに普通の授業でマニアックな楽器は出てこないだろう。現に、教卓の隣にはグランドピアノが設置されている。


「それではまず……ああ、そうだな。一応ピアノを弾ける人を把握しておきたいから、弾ける人は挙手してくれ」


 静まる教室内。

 仕方がない。簡単なものしか弾けないが、とりあえず手を上げとくか。


「お。ガルドくんか。いいね、君は万能だと聞いているよ。期待している」


 どうやら、学園長側の人間ではないらしい。

 正直、授業の担当教師が学園長派だと地獄だからな。


 俺の扱いが大変なことになる。


 とりあえず、バートーベンの『さだめ』を弾いてみるか。約六百年ぶりだ。


 一応貴族の生まれだからピアノは習っていた。

 まさかここで活かされることになるとはな。


 グランドピアノの前に立ち、黒い椅子に座る。

 精神を落ち着かせ、鍵盤に指を置く。


 慎重に、優しく。

 丁寧に音と音を紡いでいく。


 音楽を奏でる行為は本当に久しぶりだ。

 こんなにも心地がいいものだったとはな。


「あれ?」


 だが……場がやけに静まりかえっている。

 そんなに下手だったのだろうか。


 くそ、それなら挙手するんじゃなかったな。

 とりあえずキリのいいところで切るか。


 最後の鍵盤を押し、立ち上がる。

 さて、席に戻るか――


「ガルドくんにピアノを教えた人をぜひ教えてくれ!」


 担当教師に肩を掴まれ、何度も揺すぶられる。

 いや教えろと言われても、多分あの人死んでるからなぁ。


 とりあえず、


「独学ですが」


 と答えておくか。


「独学!? 君はもしかして天才なのか? いきなり『さだめ』を弾く生徒は初めて見たよ!」

「天才では……。ただの一般人です」

「いや天才だ! 誇っていい!」

「そ、そうですか……」


 そこまで言われると悪い気はしない。

 いやぁ、研究者に言われると照れるなぁ。


 席に戻ると、ユリとサシャが拍手を送ってくれた。


「すごかったよ! 本当に独学なの!?」

「やばかったです!」


 とりあえず笑っておいた。

 さすがに教えてくれた人は死んでるからね。


 いくら言ったところで無駄だろうし。

 その後は、音楽の雑学的な話が続いた。


 サブと言っても、意外と本格的なものらしい。

 やはり、魔法と違って音楽と言うものは変わらないな。


 流行は違えど、理論は変わらない。

 例えばコード進行。


 これは今でも六百年前に生まれたものが使用されているようだ。なんだか感慨深いなぁ、と思いながら授業は終わった。


 その後も研究者に呼び止められたのは言うまでもない。

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