第3話 入学試験、ステータス鑑定
「これより、試験内容を説明する!」
俺は無事、遅刻することなく学園に到着した。
無駄に広い、ドーム状の建物の中に人がぎゅうぎゅうに集められている。
この様子だと、多くの領地――いや、この量なら国単位か。数多の貴族が集められているらしい。
俺が思っていた以上に、この学園は人気のようだな。
後ろの方にいるため声しか聞こえないが、どうやら試験の説明が始まるようだ。
「試験はステータス鑑定、実技披露、最終試験と三日間かけて行われる。もちろん、試験毎に目標点を下回ればそこで失格だ。最終的に百二十八人に絞られ、グループに別れてトーナメント戦をしてもらう。合格者はトップ十六のみだ!」
あまり詳細を見ていなかったから知らなかったが、たったの十六人しか合格しないんだな。
少数精鋭といった形の学園なのだろう。
「そして……今回は平民も受験に参加している。が、この場では緊急時でなくとも例の法令は適応しない。みな、平等だ」
そりゃそうだ。そうでなければ、最終試験は行えないだろう。
「まずはステータス鑑定だ! 合格数値は全項目五百以上だ。各々に配ってある用紙に書かれてある、指定の部屋に向かえ!」
俺は学園に入る前に渡された紙に目を落とす。
どうやら魔法実験室に行けばいいらしい。
「あ! ガルドさん!」
「ユリか」
各自が移動を始め、人数が空いてきた頃にユリと目が合う。
どうやら俺のことを探していたらしい。
「ガルドさんはどこの部屋で鑑定を行うんですか?」
「俺は魔法実験室だ」
「わぁ! 私もです!」
頬を緩ませながら、彼女は言った。
ふむ。それならちょうどいいな。
「一緒に行こうか。これほど人がいるんだ、下手をすれば迷ってしまうからな」
「そうですね!」
言って、俺はユリの手を握る。
「え!?」
「ん? どうした?」
なぜか頬が真っ赤に染まってしまっている。
緊張で熱でもでているのだろうか。
それなら心配だ。体調によってステータスが変動したりするからな。
「熱でもあるのか? それなら回復魔法を」
「だ、大丈夫です!」
「そうか」
ユリがそういうなら大丈夫なのだろう。
無理やり回復魔法をかけるのも可哀想だしな。
◆
そして、俺たちは魔法実験室とやらにやってきた。
だが……面倒なことになっている。
「おいおい! コイツ、燕尾服を着てやがるぜ! こんなところに召使いあがりの平民がいるぞ!」
とある貴族が発した途端、周囲がくすくすと笑い始めた。
やはり、こんな場所に燕尾服で来るのは間違っていたか。
ユリが気を遣って指摘してこなかったのだろうから、まったく気が付かなかったな。
無視を決め込んでいると、赤髪の男は頭にキたのか胸ぐらを掴んできた。
「平民が貴族様を無視していいのかぁ?」
「弱い犬ほどよく吠えると言うが、まあいい。次はお前の番だぞ」
「チッ。見とけよ? オレは絶対合格するからな!」
言いながら、男は試験官の前に立つ。
試験官はそいつに本を渡し、それに触れろと言った。
どうやら、その本に触れるとステータスが分かるらしい。
…………
「よし。合格だ」
「よっしゃ!」
数値は見えないが、どうやら合格したらしい。
こっちにやってきて、男が自慢げに言う。
「どうだ見たか!」
「ああ、一応は見ていたぞ」
そして、ついに俺の番になった。
「頑張ってくださいね!」
「もちろんだ」
ユリの応援をもらったところで、俺は試験官の前に立った。
「所詮平民は不合格だろうが、とりあえず触れてみろ」
「ああ」
俺は本に触れる。
その刹那――
「な、なに!?」
本が燃え上がった。
そして、炭すら残さず跡形もなく消滅した。
まあ、俺のステータスは簡単に鑑定できないだろうからな。
「合否は?」
「……未曾有の事態であるが、ステータスが規定値よりはるかに高く、そのため燃え上がったと推測した。よって、合格だ……」
ふう、まあ当然か。
ユリのもとに戻ると、彼女は嬉々としてハイタッチをしてきた。
「やりましたね!」
「お前の応援のおかげだな」
「そ、そんな……」
また頬を赤らめるユリ。
やはり熱でもあるのだろうか。
「で、俺にまだ文句があるのか?」
リドルの方をちらりと見ると、
「く、くそ! たまたまだ、たまたま!」
悔しそうに、退出していった。
その後、緊張した面持ちで向かうユリ。
しかし、どうやらいい方に転んだようだ。
「やりました! 私も合格です!」
「よかったな」
どうやら彼女も合格したらしい。
しかし、どこか腑に落ちていない様子だ。
「普段の私なら、絶対にこの試験で落ちていたはずなのですが……先ほどみたステータスはいつもより遥かに高く出ていました。これも、筋肉パワーなのでしょうか?」
「そうだ。筋肉だ」
しかし、ユリは変わらず不思議そうにしている。
まあ、いつかは教えてやってもいいかもしれないな。
「それよりも、今日は一旦解散だ。一人で帰れるか?」
「大丈夫です! それでは、また明日!」
「ああ」
そう言って、廊下をかけていくユリ。
俺は彼女の背中を見届けた後、ゆっくり歩き始めた。
「ん?」
誰かが前方からかけてくる姿が見える。
「ちぃぃぃぃこぉぉぉぉぉぉくぅぅぅぅぅぅだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
輝かしい金色の髪を左右にまとめた、ツインテールの女の子が必死の形相で走ってくる。発する言葉から察するに、寝坊したか迷ったかの二択だろう。
少なくとも、まだステータス鑑定試験は行われているので問題はないと思うが。
「あ、あの! ここで合ってるよね!? ここ、魔法実験室だよね!?」
ハツラツな声音で少女が尋ねてくる。
汗が滲んでいる様子から、ずっと走り続けていたのだろう。
「ああ。合っているぞ」
「ありがとう! あ、僕はサシャ! もしかしたら、また会えるかもだから挨拶しておくね!」
「俺はガルドだ。よろしく」
彼女が部屋に入っていくのを見届けた後、俺は改めて歩き出した。
それにしても、今日も野宿か。
さすがに辛くなってきた。
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