実在の街を舞台にしながら、オカルトを扱うという、一瞬ミスマッチに思える取り合わせですが、名古屋をよく知っている私からすると、神社とか昔の遊郭とか病院とか、ちょっといわくつきな場所(施設名は伏せてあるがモチーフとなるものはある模様)を実際に登場させたりして、そこに潜む怪異と対峙します。
誰もが知っている童謡やおまじないをキーワードにして、隠された怖い意味を掘り下げてみたり、幽世の描写はホラーテイストも混じっていたりしますが、爽やかな探偵さん、随時登場する名古屋飯テロも出てきたりして、そこまで怖くはありません。
描写力は相変わらず丁寧で、読む側にストレスを与えない筆致で、しかしながら、これまでの陽澄ワールドとはまた違う新しい素材と完成度の高さに、驚嘆せず入られないでしょう。
名古屋を舞台とした現代ファンタジーはあまり見ないのではないでしょうか?
名古屋に縁がある人はもちろんのこと、ない方にもぜひ読んでいただきたいです!
名古屋のとある雑居ビルにある探偵事務所。とはいえそこにいる探偵さんは、浮気調査も密室殺人の謎解きも、怪盗を捕まえたりもしません。
ここで取り扱うのは、非現実の世界で起きた事件。言ってしまえば、オカルト的な事件です。
当然、常識では考えられないようなおかしなことも多々起こりますが、そこはさすが専門家。こちらもこちらで、普通の人間には決して真似できないようなやり方で怪異に挑みます。
しかし本作の主人公は、そんな専門家である探偵の樹神先生ではなく、その助手である服部少年。
彼もまた普通の人とは違う不思議な力を持っていますが、それ故に何か心に悩みを抱えている模様。大人であり精神的にも能力的にも強い先生と比べると、どうしても見劣りするところがある。だけどそういう弱さが、そして、それでも何とかしたいと頑張るところが、彼の魅力でもあるのです。
一人で全てを解決できるようなスーパーヒーローではないけれど、不器用ながらできることを精一杯やろうとする一途さは、きっと見る人の心を動かすことでしょう。
あと、本作を語る上で忘れてはいけないのが、所々に出てくる名古屋めし。もしも名古屋に遊びに行かれることがあれば、本作を読みながら何を食べるか決めるのもいいかもしれません。
怪奇とミステリーが両方味わえる奇異な事件の謎。本当は怖い童謡。
想いが報われぬまま漂い続ける魂の重たさ、業の深さ。
時々読者を襲う強力な飯テロ。
そしてなにより、語り手である高校生の服部少年が様々な事件をとおして自分の生き方を見つめていく成長の物語。
洒落者の樹神先生のかっこよすぎる声や、登場するたびに粋な和装ファッションを楽しませてくれる百花さん。彼らの名古屋弁の会話はスリリングな展開の中で緩和剤のように和ませてくれます。
霊や怪奇現象を題材にとり、共感応という特殊能力を持つが故の主人公の苦しみや悩みが描かれていますが、生きていること、自分の存在に対して人知れず疑問や悩みを抱えている十代の方々にぜひ読んでもらいたいです。きっとこの作品の樹神先生や百花さんのような大人がどこかにいるはず。そして自分を肯定できる場所がどこかに見つかるはず。
事件を解決しながら、心に巣食った暗闇にも光が差すような心地になります。
怪奇譚とヒューマンドラマが織りなす、読みどころ満載の素晴らしい一作です。
この物語は、他人の想いに翻弄される異能を持った主人公が、自分の中の強さに気付くまでの物語。主人公は名古屋の有名進学校に通いながら、探偵(先生)の助手として働いている。先生には他人に干渉する声の異能があった。そんな探偵事務所に舞い込んでくるのは、ちょっと怪しい事件ばかりだ。
行方不明の予備校生は、かくれんぼの声を聞いた。ある神社では、犬の日に妊婦さんばかりが階段で転ぶ。その前兆には「かごめ、かごめ」の歌が聞こえていた。そして童謡「あめふり」では女子高校生が……。次々に起こる事件を、主人公と先生、そして調香師の女性が、解決していくが、そこには昔の名古屋の遊郭が関わっているようだった。そして明かされたのは、調香師の女性に関する秘密だった。
そして主人公はかつて、守られなかった約束を思い出す。主人公は病院で、少女と指切りげんまんしていたのだが、その記憶を消されていて⁉
この世とあの世の隙間は、今日も開かれ、迷える魂は声に導かれてあるべき場所へ帰っていく。そこに寄り添うのは、強い共鳴をもつ少年と、気高き香りの女性。
名古屋という場所の歴史、その土地ならではの神社など、知らないことが沢山伏線として張り巡らされており、とても読み応えのある作品でした。また、思い返せば誰でも知っている歌やおまじないが、こうして作品に取り込まれているものを初めて拝読し、オリジナリティの高さをうかがえます。また、誰にでもある人間の弱さと強さを同時に扱っており、霊にまで感情移入させるような設定で、最後に希望を見出だせる仕掛けも脱帽ものでした。
是非、御一読下さい!
他人の感情が流れ込んできてしまう共感能力を持つ高校生・服部朔。
彼が助手として出入りしているのは、オカルト関係専門の樹神(こだま)探偵事務所。
自身もまた、異能を持つ樹神先生の元に、今日もまた不思議な依頼が持ち込まれる……。
異能を持つがゆえに家族とうまくいっていない悩める青少年・服部少年の視点を中心に綴られる物語です。
思春期特有の不安定で純粋で、それでも前を向こうとする服部少年の姿に、読んでいて目頭が熱くなることもしばしばです……っ!。・゚・(´^`*)・゚・。
服部少年の両脇を固める樹神先生と、謎めいた美女・百花(もか)さんの存在がまた素敵なのです! 迷える少年を優しく、時に厳しく導いてくれます。
名古屋を舞台にしているので、ご当地グルメも満載な今作。
「食べてみた〜い!」とご当地グルメによだれをたらしつつ(笑)、服部少年の成長を見守ってあげてください!(*´▽`*)
名古屋――。行ったことがない人にとっては、ありふれた都市の一つでしかないでしょう。しかし、そうでない人にとっては、土着の文化があり、方言があり、年季の入った店舗が竝ぶ、どこか郷愁を誘う場所かもしれません。
そんな名古屋の街角で、「もういいかい」「まあだだよ」という子供の遊び声や、かごめ歌、童謡などと共に差し込む茜色。その向こうにあるのは様々な怪異が存在する異色の世界です。怪異は、時として現実世界に浸蝕して事件を起こします。
そんな事件に立ち向かうのは、樹神(こだま)探偵事務所の探偵・樹神皓志郎先生と、その助手である男子高校生・服部朔くんです。とくに朔くんは、闇を抱えた者の感情を受信することのできる特殊体質でもあります。
子供の頃の何となく不安な感情に似た薄気味悪さと、郷愁を誘う雰囲気の中で起こる怪異。樹神先生と朔くんの凹凸コンビと和風美女、そして時たま差し込まれる飯テロの描写も秀逸。思わず名古屋を訪れてみたくなること必至です。
そんな怪異の向こうに現れる、人の闇と、その切なさとは――?
是非、お手に取ってみてください。
名古屋に存在する、樹神探偵事務所。そこに持ち込まれる相談は、ペット探しや浮気調査ではなく、幽霊絡みの怪異。
警察や普通の探偵では解決不可能な怪異の相談ならお任せあれ。それが樹神探偵事務所なのです。
このお話は、登場人物がとても魅力的。
物語の語り部で、探偵事務所でバイトしている服部少年は特殊な力を使い、事件解決に一役買っていますけど、彼はまだ非力な子供。しかし事務所の主である樹神先生や、美しく優しい女性の百花さんなど、頼れる大人たちに支えられながら、成長していきます。
自分ではどうにもできない壁にぶつかった時、力になってくれる人がいるって、良いですね。
不思議な事件を解決するだけでなく、人間関係が丁寧に描かれていて、ヒューマンドラマとしても非常に面白いです。
そして本作を語る上で外せないのが、飯テロ。
ちょいちょい登場する、美味しそうな名古屋グルメ。
読んでいて、名古屋に足を運んでみたくなりました。
他人の感情を我がことのように受信する、共感応――エンパスという能力を持つ高校生・服部朔は、名古屋の雑居ビルで探偵業を営む男・樹神皓志郎とともに、非現実の世界で起きた事件の調査を行っています。異能調香師の和装美女・百花の手も借りながら、現実世界とは階層が異なる幽世で、事件を解決していくうちに……名古屋で頻発している事件に関連性が見え始め、主人公たちを大きな事件へと導いていきます。
人に害をなす怪異の怖さ、美味しそうな名古屋めし、温かみのある方言……本作の見どころはたくさんあります。中でも私がおすすめしたいのは、他者の心が己に筒抜けになってしまう体質ゆえに、他者とも己とも適切な向き合い方に難儀している主人公・服部くんの成長です。
声に特殊な能力を持つ樹神先生や、ふんわりとした雰囲気でありながら独特の色気を持つ百花さん、それから事件を通して出会った依頼人の予備校生、服部くんの妹に、その友達……多くの人たちと関わりを持つ中で、その時々の感情を心の栄養に変えて、いつしか前を向いて進み始めた服部くんの成長には、目覚ましいものがありました。エンパスという特別な体質ではなくとも、自他との関わり合いに苦悩した経験を持つ多くの方々が、彼の葛藤に共感できるのではないかと思います。
読み終えた時、幸せな読後感に包まれました。多くの登場人物たちのさまざまな感情に共感できた、素晴らしいお話でした。
他者の心の感情をまるで自分の身に起きたかのように受信してしまう主人公の服部 朔。
彼は知る人ぞ知る、ちょっと通常の依頼とは異なった事件を解決するという『樹神探偵事務所』で助手をしていて——。
ひと癖もふた癖もありそうな、先生・樹神探偵に、謎の雰囲気を醸し出す和服の美人。
巡り歩くは怪異奇譚と名古屋の美味しいグルメ。
もうこの緩急が堪らないのです。
夕刻に読めば、物語の雰囲気、柔らかな名古屋の方言、夕焼け空と名古屋グルメの匂いに読者が誘い込まれそうな物語の数々。
人々を薄明かりの向こうへ引き込むのは、誰もが知っている童謡でもあって……。
現世と幽世、誰そ彼とわからぬその狭間の世界。
怪異に関わりつつ、十七歳の少年らしい心の揺らぎや葛藤を抱えながらも服部少年が前に進んでいく姿には、読んでいるこちらが心の底から応援し、また共感して共に歩みたくなります。
彼の心に、怪異事件に、"彼は誰時"は訪れるのか。
それはあなたのその眼で……しかと見届ける事をオススメします。
まだまだ続きを見たくなるような、とても素敵な物語です。
ある日の夕暮れ、受験生・都築(つづき)務夢(つとむ)は《声》を聞いた。
ーーもういいかい。
ーーまあだだよ。
模擬試験の結果にむしゃくしゃしていた彼は、ついそれに応えてしまう。
数日後、『樹神(こだま)探偵事務所』に、務夢の姉・翼沙(つばさ)が現れる。失踪した弟を、警察とは別の方向から探して欲しいという依頼だ。
樹神皓志郎(こうしろう)探偵と高校生助手の服部朔(はじめ)少年は、捜査を開始するがーー
◇
現世と幽世と狭間の世界をめぐる、伝奇ミステリーです。
名古屋に土地勘はないのですが、街並みの描写や土地の言葉に親しみがわきます。各章で童謡や土地に関する信仰に触れられるのも、民俗好きとしては楽しい。
《声》の主が抱える悲しみや、それに応じてしまう人間側の葛藤、個性的な登場人物達が魅力的です。
あやかしミステリー好きな方にお勧めです。
『樹神探偵事務所』
密室殺人なんかとは縁がないけれど、この探偵事務所にはちょっと変わった依頼が持ち込まれる。
―――
失礼して本文から引用させていただきましたが、複数あるエピソードの序盤に主人公「服部 朔」くんの案内が。連続ドラマか連作小説か、これぞ探偵ものという雰囲気から始まります。
とは言っても、ちょっと変わった依頼というのが曲者。密室殺人なんかとは縁がないって、そもそも相手にしてないのではとツッコミたい。
探偵「樹神 皓志郎」が手掛けるのは、怪異による事件ばかり。服部少年は日々、その助手として走り回っているのでした。
物語は、いくつかの短編形式のエピソードで紡がれます。舞台となる名古屋の描写が色鮮やかに景色を思わせ、そこに起こる事件の闇との対比が重く心に圧し掛かります。
お話のあちこちへ大胆に、あるいは緻密に、結末へ向かう鍵が隠されています。明らかになっていく真相に向け、関わりそうなキーワードも多く見つかります。
樹神先生の助手気どりで謎解きなんぞしておりますと、意外な展開に驚かされますが。
登場する人物たちに、それぞれの人生を感じずにはいられません。多感で内罰的な服部少年が、人との関わりで変化していくお話でもあります。
しかしその実、服部少年は天然の人たらしなのかもしれません。関わった人々は程度の多寡あれど、彼に関わり続けようとします。
私の推しは、艶やかという言葉のピッタリな「百花」さんですが。
現時点で完結まで今少しのようですが、残りのお話でどう結ばれるやら見当がつきません。ドキドキしつつ、最後の景色を楽しみに待つこととしましょう。