茜色の彼方に見えるのは、潜む妖か、あの日の思い出か……。

名古屋に蔓延る妖たち。人々を惑わし、たぶらかす、そんな怪異たちに向き合いながら、やがて自分を見つめる方法も学んでいった少年の物語です。
彼の師は樹神先生という、飄々とした雰囲気の気障男です。いつでも颯爽と現れて自分を助けてくれる先生に、服部少年は劣等感を抱きます。「自分は大人がいないと何もできない無力な『子供』なんだ」と。
いや、先生に対してというよりは、「助けがないと何もできない自分に対して」劣等感を抱いているのかもしれません。
「あなたがいると調子が狂う」。家族からそんなことさえ言われていて、心が傷ついた少年が師の樹神先生や周りの人、事件を通じて接した人なんかを通じて前を向いていく物語になっています。

心に棘の刺さっている少年の成長記を、妖たちとの対峙や、名古屋飯テロなんかを織り交ぜながら展開していきます。ストーリーの上手さや文章の上手さはさることながら、この飯テロがたまらなくて……名古屋に足を運んで実際に食べてみたくなりました。いつか聖地巡礼しても楽しいかもしれない。そんなことを思えた作品です。
妖の事件ごとに描かれる依頼主や登場人物の心の穴がリアルで、思わず「自分もこういう感情抱いたことある……」と沈痛な思いになるのですが、その後に来る救いの手が温かくて、「ああ、よかったな」と思える小説です。
僕個人がこの作品から学んだことですが、何かしらの個性や特性があって社会に馴染めない人でも、必ずどこかに居場所や適所があって、咲ける場所があるんだなって思いました。
そういう意味では、茜色の夕暮れのように、温かく時にノスタルジックに、人の心を包んでくれる、そんな小説なんじゃないかと思います。

少年の心の成長、飯テロ、「心のスキマ」の埋め方(こう書くと何だか悪そうですね 笑)、そんなのが楽しめる作品になっています。
是非ご一読ください! 素晴らしい読書になります! 

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