初めてのキスは……


「お前は今恋をしてるんだよ! 認めろよ! 神楽坂!」俺は叫んだ。

「違う! 私は!」

スマートウォッチが心拍数を読み上げる!

「心拍数121! 122! 123! 危険領域です!」ビーーービーーービーーー!

スマートウォッチの機械の声がそう叫んだ。


「私は恋など……!」神楽坂は顔を真っ赤に赤らめる。

「良いから聞け! 神楽坂!」俺は叫んだ!

「はい!」神楽坂も驚いたように反応する。


「好きだ!」俺は言った。

ビーーーービーーーービーーーー!! 神楽坂のスマートウォッチが鳴り響く!

「心拍数141! 142! 143!」


「ハァ!」神楽坂の取り巻きの木苺が叫んだ。

「どうした! 木苺!」そばにいた取り巻きの女が叫ぶ。


「イ! イイイイ……イケメン度1万8千!」木苺が叫んだ。

「なにぃ! なんだその数値は! ありえない!」取り巻きの女が叫ぶ。


「大好きだ!」俺が叫ぶ。

「ひいっ!」神楽坂は情けない声を出した。そして赤面しながら言う。

「私も……お前のことが……」神楽坂は恥ずかしさのあまりうつむいて答える。


いける! この反応! 神楽坂が女になってる。俺はグイッっと神楽坂に近づく。すると神楽坂のロングの髪の毛ファサーーっと風で揺れた。

「!」するととてつもなく芳しい香りが俺を襲った。! なんだこの香りは! まるで天国にしか生えていない果物のような甘い香り! ドクン! っと俺の中の心臓が脈打つ。よく見ると神楽坂も興奮してるのか汗ばんでいる。そうか! 興奮して発汗作用が高まったことによって強烈なフェロモンが出てきたというのか……


「ごふん!」俺は咳き込んだ。駄目だこの香りを嗅いだら….本気で神楽坂のことが好きになってしまう。ミイラ取りがミイラになってしまう。駄目だ! それじゃ駄目だ! 冷酷になるんだ。メェ~メェ~と鳴く羊たちと触れ合ったあと牧場のレストランでラム肉を平気で食べられる家族連れのような冷酷さを持て! 冷酷になるんだ! 俺!


「神楽坂答えてくれ。お前も俺のことが好きなハズだ」俺は鼻をつまみながら言った。

「わ! わたしは……」神楽坂はますます赤面しながら下をうつむいて首をぶるんぶるんと振る。

「私は!」と言いながら神楽坂はガバッっと顔をあげて、真っ赤になった神楽坂は俺の目を真っ直ぐに見て言う。


「私もお前のことが好きだ!」神楽坂はそう言った。

「?」

え? 何いってんだ。本気でどうしたんだこいつ。俺は戸惑う。あれ? そこは振るとこだろ。え? ふざけるな! パチーーン! で俺の頬を引っ叩くとこだろ。目標叶ったじゃないか。好きにさせてから振るって。で、俺がここで

「俺がお前を好きだって言ったのは嘘だよーーん 草 誰がお前みたいな人格異常者好きなんて言うか!」って言えば俺の復讐は達成される。


「しゅきぃ……朱雀くんのことがしゅきぃ……」神楽坂は潤んだ瞳で俺に言った。どういうことだ。このままだとタイトル回収しそうだぞ。


「嘘だ……神楽坂があんな方法で落ちるなんて」

「まるで恋する乙女じゃないか。神楽坂」生徒たちが口々に言う。

キャーーーー!! 女たちが騒ぐ。


すると周りの生徒たちが口々に言い始めた。

キーーース!

キーーース!

キーーース!

キーーース!


生徒たちのキスコールが始まった。

「うぅ……」神楽坂が身悶えする。なんなんだこの状況は! 衆人環視の中俺たちはキスをしないといけないのか。


「してくれないのか?……」神楽坂は潤んだ瞳で俺に言う。キーーース! キーーース! 周りの生徒たちが口々に叫ぶ。


いやこれしても良いやつじゃねぇの? 俺は思った。いやむしろここでしなかったら俺は空気の読めない人間になってしまう。これだけギャラリーが盛り上がってるんだ。やらないと駄目なやつだろ! これは!


俺は神楽坂に唇を近づけようとする。神楽坂は目を閉じた。まるで地球の引力に吸い寄せられる隕石のように俺の唇は神楽坂の唇に引き寄せられる。

キャーーーー!! 女たちの黄色い悲鳴が上がる。


しろっ! キスをしろ! キスをしろ! 俺は自分に言い聞かせる。だがこれでいいのか? 周りに流されるままキスをするなんて。これじゃまるで飼い主から交尾をするように圧力をかけられているサラブレッドかなんかのようだ。こんな形で俺のファーストキスが?

こんな形で神楽坂と恋人になるのか。



俺は……俺は神楽坂に近づいていた体をバッっと離した。そして神楽坂と距離を置いた。えっ? 周囲のどよめく声が聞こえる。


「俺はキスはしない」俺は言った。


すると周囲の学生から

えええええええ!!!! っと不満そうな声が上がる。


「俺はこんな形じゃキスはしたくない。こんな勢いでするキスなんて意味がないんだ。神楽坂俺はお前を本気で惚れさせる。その場のノリでキスするなんて最低だよ!」決まった……クソカッコイイな俺。


すると周囲からやっぱり えええええええ!!! っと声が上がる。

「なんなんだよ意味不明だわ!」

「早くキスしろよ!」

「ここまでしといて!」

なんだか怒り出した。


「いやみんな聞いてくれ! これは……ぶべぇ!」バチーーン! 俺はふっ飛ばされる。神楽坂のビンタが俺の頬にクリーンヒットした。床に倒れ込む俺。そして神楽坂を見つめる。神楽坂の顔はさっきまでの恋する乙女の顔じゃなくいつものサイコパス神楽坂の顔に変わっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る