結婚してください

「おい! 何いってんだよ!」俺はヒソヒソ声で言う。

「だってあなたが悪いんじゃない! 私を荷物みたいに扱って!」女の子は言う。


「うわああああ!! しまった助けるんじゃなかった。こいつ裏切りやがった!」俺は女の子を降ろしながら言う。


「もうなんなのよ! これ! どうするのよ!」ヒナが叫ぶ。

俺と俺が担いできた女の子はいがみ合っていた。

「お前が家まで行きたいって言ったんだろ! 誘拐犯って言われたら俺は捕まるだろ!」俺は言う。

「勝手に捕まりなさいよ! 私しらないわよ!」女の子が言う。


「どうしよう……どうしよう……」母親が悩んでいる。

「!」そしてひらめいたように言った。

「隠蔽しましょう!」母親はそう言った。

「え?」俺は驚く。


「隠蔽して全部無かったことにすれば全部解決じゃない! 私達はなにも見てない。みんなそれでいいね」母親は言う。明らかに目がイッていた。そして母親は俺が連れ帰った女の子に詰め寄る。


「お願い! 泣き寝入りして! 私達の幸せのために! 赤の他人の幸せより私達の幸せが大事でなにが悪いの!」と女の子に母親が言う。


「ちょっとお母さん」女の子が言う。


「ふざけるな! 隠蔽なんて……やっていいのは政治家と学校の先生くらいだぞ! 搾取されるだけの一般人がやって良いはずないだろ……!」俺は母親に言う。


「隠蔽なんてやっちゃダメだよ! みんななに言ってんのぉーー!」ヒナが叫ぶ。


「おい、騒がしいな」と言いながら玄関から父親が帰ってきた。

「お父さん!」と言いながら母親が父親にしがみつく。

「あっ! ジュリア!」俺が連れてきた女の子が言った。父親のすぐそばに表情が硬い女の子がいる。


「アリス様。こちらにいらっしゃったのですね。心配しました」とジュリアと呼ばれた女の子は言う。

「この子が探してる人がいるって言うから連れてきたんだ」と父親はジュリアを横目に見ながら言う。


一時間後……


「ふむふむ。なるほど。君たちは月からやってきた宇宙人だと。そう言いたいんだね」父親が言う。俺たちは全員リビングに集まり家族会議が行われていた。


主に父親とジュリアと呼ばれるアリスの従者が話をしていた。


「はい。その通りです。私達はアリス様のご婚姻のために地上に降り立ちました」ジュリアが言う。


「ありがとうジュリア。私の口から朱雀イツキさまにお伝えしなければならないことがあります」アリスが言う。


「どうか私と結婚してください。よろしくお願いします!」とアリスは目をつぶって俺に手を差し伸べながら言った。


俺はそれをバナナを食べながら聞いていた。突然のプロポーズにバナナを食べる手が止まる。


「どうでしょうか……」アリスが目を開けながら俺の方をチラリと見る。


「ちょっとゴメン。俺いまバナナ食べてて……それどころじゃないんだ。ほらこの白い筋のところを取るのが難しくて……」俺は突然の急展開にパニックになりながら答える。


「おにぃ。パニックになって優先順位間違えてるよ!」とヒナが言う。


「イツキ! お前一世一代のプロポーズの瞬間にバナナなんて食べてる場合か!」と父親は俺に怒る。


「いいんです。お父さん。どうぞごゆっくりバナナを食べて下さい。私はここで待ちます」とアリスは俺をジッっと見つめながら言う。


家族全員、父親、母親、ヒナ、それと宇宙人御一行、アリス、ジュリアの目がバナナを食べている俺に注がれる。


俺がいつ食べ終わるのかと全員が注目していた。俺はゴクリと唾と一緒にバナナを飲み込む。


一体なんて答えたら……まるで状況が理解出来ないんだが……その宇宙人の女の子……見た目は地球人の美少女だが……が俺にプロポーズしてきて……


俺はバナナの皮をテーブルに置くと喋り始めた。周囲の緊迫感のある視線が俺に注がれる。


「あの……とりあえずトイレ行っていいですか?」俺は言った。

周囲から非難のどよめきが起こる。


「おい、なんなんだイツキ」と父親が怒る。

「もー早く行ってきなよ!」とヒナも怒る。


「イツキ様の尿意に気づけず申しわけありませんでした。いち早くトイレに行って答えを聞かせて下さい」とジュリアが言う。


「すみません。うちの子が煮えきらなくて」と母親が言う。


「そもそも急にプロポーズされても困るだろうが! 俺になにを期待してんだよ! 続きはCMの後でじゃねぇんだから!」俺はそう言いながらトイレに行く。


ジョボジョボ……俺はトイレで立ちながら小便をする。

「もう意味分かんねぇわ。どういうことだよ」俺は独り言を言う。


コンコン!

「すいません入っていいですか?」とアリスの声がした。えっ? 俺はおしっこをしながら首だけ振り返る。ガチャ! アリスが入ってきた。


「すいません。イツキ様。急に押しかけてしまって」とガチャリと後ろ手でドアを閉める。トイレという密室空間に放尿中の俺とアリスという謎の状況になる。


「私が地上に降り立った目的はこの地球を救うためです。それは先ほど申し上げた通りです。イツキ様は神楽坂唯に本日告白しましたね? あれで歴史の歯車が狂ったのです。将来的にあなたと神楽坂様は結ばれることが確定しました。だが……」アリスは目を伏せる。言いにくいことでもあるのだろうか。


俺はジョボジョボと小便を流しながらポカーンと聞いていた。


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