アリス

「病院には連れて行かないでください……どうかあなたのお家で休ませて下さい」

女の子はそう言った。え? なんだこの女の子。頭からピッコロ大魔王みたいなツノみたいなものが生えてるんだけど。


「ごめんなさい。おばあちゃんから道端で倒れている人を見かけたら、絶対に見ないフリして立ち去りなさいって言われてるんで」俺はそう言いながら立ち去ろうとする。


「おい! 子供になに教えてんだよ! おばあちゃん! 普通逆だろ! 逆! 待て! 行くな!」倒れている女の子が言う。


「でも、あなた110番で救急車呼んだほうがいいですよ」俺が言う。

「いやだから病院には行きたくないんだって! あと救急車は110番じゃなくて119番な!」倒れてる女の子が言う。


「あっ! そうか! 119番か! 今電話します!」俺はスマホを取り出して119番しようとした。


「ちがーーう!!」と言いながら女の子は起き上がり高速で俺の119番をする指を止めた。


「ハァハァ……」肩で息をする女の子。俺はその姿を見て戸惑う。


「なによそれ……!」その女の子は言う。


「えっ?」俺は驚いたように返事をする。


「言ってたじゃん! 可愛い女の子が空から降ってきて欲しいって言ってたじゃん……それが男の子の夢だって言ってたじゃん!」その女の子は悔しそうな顔をする。


「そりゃ男子が一度は見る夢だけど……それはフィクションの話って言うか……最近の男子の抱く夢の一位は学校がテロリストに占拠されて自分がテロリスト相手にナイフ一つで無双するってものだから……」俺は言った。


「いや! 無理でしょ! テロリスト相手に生徒一人で! なに妄想してんのよ!」女の子が言う。


「妄想だと学校の体育館でテロリストのリーダーと最後の対決をするんだけど、何回妄想しても絶対最後のバトル体育館なんだよな。あれなんなんだろ」俺は考え込みながら言う。


「私が知るわけないでしょ! とにかく……」と言いながらその女の子はふらつくように俺にもたれかかる。


「お願い。あなたの家で休ませて」その女の子は言った。


なんだこいつ……ヤバいやつじゃん……俺は思ったが……

「分かった」俺は言った。


「お姫様抱っこされるのかな……」女の子が期待を込めた声で言う。


「ん? なんか言ったか?」俺は言う。

「ん? なんでもない」と、もたれかかりながら女の子は俺の顔を見上げて言う。


「じゃあ行くか」俺は女の子をお姫様抱っこの形に持ち上げる。

「キャッ!」女の子が軽い悲鳴をあげる。


「しっかり掴まってくれよ」俺は言った。そして女の子をお姫様抱っこしながら歩き出す。


「うわぁー周りの人見てるー……」恥ずかしそうに女の子は言う。俺たちは商店街に来てた。

「ん? じゃあやめる?」俺は聞いた。


「ん? やめてほしくない。あたし夢が一つあるんだ。好きな人と周りのことなんて全く気にしないでキスしたり……抱きしめ合ったり……お姫様抱っこされたり……そういうのに憧れてて……夢叶っちゃったな……」女の子は俺の表情を見上げながら言う。


「まぁそれは良いんだけど、腕が疲れたんで持ち方変えていい?」俺は聞いた。

「あっ……うん。いいけど」女の子が言う。俺はそっと女の子を地面に降ろした。


「よしっ!」俺は再び女の子を持ち上げる。

「ちょっと待ってこれ!」女の子は叫ぶ。


俺はお姫様抱っこをやめ、効率的に女の子を運ぶため自分の肩の上に女の子を担ぎ上げる方法に変えた。俺の首の後ろに女の子の腹がくるような格好だ。俺は右手で女の子の足を保持した。

「しっかり掴まっててくれよ! いくぞ!」俺は言った。


「ちょっと待ってこれ! 拉致されてるみたいになってるから! みんなに見られてるからやめて!」女の子は言う。


「黙ってくれよ。黙って荷物になってくれないと困る!」俺は女の子を運んで走りながら言う。


「ちょっとこれ軍隊とかて負傷兵運んでるみたいになってるからやめてーー!」女の子は叫ぶ。俺はエッサホイサと女の子を運んだ。


俺は自分の家につく。自転車は駐輪場に置きっぱなしにしてきた。


「キャーーーー!! あなたなにしてるの!」玄関開けるなり母親が言った。

「道端で女の子が倒れていたから助けようと思って担いで帰ってきたんだ」俺は満面の笑みで言う。俺本当善人だよな。


「え? あっ……なに言ってるのこの子……どうしよう……! とうとう私の息子が犯罪者に……! 元々バカだと思ってたけど。犯罪だけする子じゃないと思ってたのに……! あぁ育て方間違えた!」母親が動揺している。いや、あのさ。言い過ぎだろ。


「どうしたの。お母さん」と言いながらヒナが二階から降りてくる。

「キャーーー!! あああ……お、お兄ちゃんが女の子を戦利品みたいに担いでいる……」ガクガク震えながらヒナが言う。


「いや、これ女の子から頼まれたんだ。俺の家に行きたいって。理由は知らないけど」俺は弁解するように言う。


「ほっ本当なの?」母親が言う。

「嘘です。拉致られました」と俺が担いでいる女の子が言った。ええええええ!!! なに言ってんだこいつ。

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