リア充

俺は高校近くの駅に降り徒歩で学校に向かう。

「おはよ! イツキくん!」俺が歩いていると女の子が俺に声をかけながら走り抜けた。ふぅ。俺はモテモテだ。なんだかんだみんな理由をつけた俺に話しかける。


分かってるのに道を聞いてきたり、この前は女の子がワザと俺の目の前で転んだりした。もちろん俺に助けてもらうためだ。リア充になると見えてくるものがある。まるでモテない時とは別世界だった。まるで自分がこの世の王であるかのような錯覚すら覚える。


俺は学校に着いた。神楽坂高校。最新鋭の設備。太陽に照らされる清潔な校内が見える。


俺は教室に向かった。


「あっ! イツキくんだよ。早く言わないと!」

「無理だよ……出来ないよ」

俺は廊下を歩いていた。女の子たちが廊下でこっちをチラチラ見ながらヒソヒソ話していた。女の子の声が聞こえる。


「ねぇ! ねぇ! 本当ムリ! 出来ないよ!」女の子の声が聞こえる。

「大丈夫だって。じゃあ私が最初に声をかけるから、ちゃんと好きだって言うんだよ」友達らしき女の子の声が聞こえる。

「うん。お願い。梨穂子……」


女の子から梨穂子と呼ばれた女の子がゆっくりと俺の方に近づく。

「え? なに? 俺になんか用?」俺は梨穂子に聞く。


「あのーー。朱雀樹くんですよね? あのぉ……私の知り合いがイツキくんに伝えたいことがあるって」言いにくそうに梨穂子は言った。

「伝えたいことってなに?」俺は言う。


「ここじゃ人が見てるので……放課後に音楽室まで来てもらっていいですか?」梨穂子は言った。

「うん。いいよ」俺は答える。


「あっ! ありがとうございます」と言って梨穂子は緊張してる様子でペコリと頭を下げた。そしてパタパタも女友達のところに戻っていった。


「オッケーだったよ!」梨穂子が女友達にそう言う。

「やっキャーーーー!!」悲鳴とも歓喜の声とも区別のつかない声で女の子は叫んだ。俺はそれを横目に教室に入る。


「よっ! イツキ!」教室に入ると友達の東雲獅子雄が俺に手を振った。俺もシシオに手を振って返す。

「なんだお前。また純な女の子のハートをもて遊んだのか」意地悪そうにニヤニヤしながらシシオは言う。

「どうせやることヤッてから捨てるんだろ! 本当鬼畜だなお前」と言いながらシシオは笑った。


「んなわけねーだろ。ちゃんと振るよ」俺はシシオに言う。

「お前俺のこと好きなんだろ? だったら全部俺の好きにさせろよ! って言って無茶苦茶にするつもりだろ」と言いながらシシオはギャハハハハと笑った。下品なやつだ。


「違うって」俺はシシオの胸に軽くパンチする。

「でもイツキって面食いだから。Aランク以上の美女じゃないと付き合わないんだろ」シシオの隣りにいた早坂冬馬が言う。

「Aランクってなんなんだよ。牛かよ」俺は突っ込む。そろそろ周りの女子の目が痛い。


「あーーこのクラスブスばっかりだからな。可愛いい子いねーかなぁ」同じく友達の東條鼠雄……トウジョウネズオが言う。

「いや……そんなことないだろ……」俺は引きつりながらそれに答える。


「何あいつらサイテー!」女子たちの声が聞こえる。

「黙れよあいつら!」ヒソヒソ声で俺たちを非難していた。どうやらネズオの言ってたことが聞こえてたらしい。やべぇよ。俺が言ったことじゃないのに……なんで「あいつら」になるんだよ。


「隣のクラスの木苺ちゃん可愛くない? 小柄で……」と同じく友達の木下猫丸……キノシタネコマルが言う。一瞬俺たちはなにもリアクションがとれずに無言になる。


「お前ロリコンかよ! 木苺ちゃんって小学生みたいな見た目の子だろ? ヤベー犯罪者いたわ」と言いながらシシオは笑う。

「違うって! なんか妹みたいだなーっと思って」恥ずかしそうにネコマルは弁明する。


「なんだよお前妹で欲情すんのかよ。ガチの変態じゃねぇか。お前」とシシオが言うと俺たち五人はギャハハハハと笑った。


俺たち五人……東雲獅子雄、早坂冬馬、東條鼠雄、木下猫丸、そして俺、朱雀樹はいわゆるリア充だった。正確にはスクールカースト最上位の存在。だからクラスでこんなふうに大声で誰かを馬鹿にするような発言をしていてもそれが許容されていた。シシオもこれだけ傍若無人な態度でも女子たちからは人気があった。


特にシシオは自他ともに認めるスクールカースト一位の男だった。まぁいうならば俺らはそのシシオの取り巻きだ。シシオを中心にして俺らは集まっていた。


ただ、みんなに分かって欲しいのは俺は好きで人を傷つける発言をしてるわけじゃないってこと。正直こいつらの発言は最低だと思うが……でもこいつらは俺の友達なんだ。友達だからこそちゃんと注意しろよ! ってのは分かるけど、友達だからこそなかなか注意出来ないってのも分かって欲しい。


友だちが集まると気が大きくなって普段一人では言えないようなことや出来ないことも出来るようになる。ま、それが楽しいんだが……


「おっきな声でサイテー」

「なにあいつらリア充のつもり?」女の子のヒソヒソ声が聞こえる。


ま、傍から見てたら楽しくない人もいるよね。


「木苺ちゃんって処女なのかな」とネコマルが言う。

「オイ! ネコマルお前! ヘンタイ! ヤベーだろ。お前その発言はヤベーだろ」流石にシシオもその発言に引く。


「ネコマル。お前将来絶対に新聞に載るわ。木下猫丸(32)女児に対する性犯罪で逮捕って」とトウマが言うと全員でギャハハハハと笑った。

「アハハハ……」と俺もみんなに合わせて力なく笑う。


すると廊下で女子たちの黄色い声が聞こえてきた。キャーーーキャーーーと黄色い悲鳴が聞こえる。

「ん? なんだ?」俺は廊下を見た。すると神楽坂唯が歩いていた。


「カッコいい!」

「素敵!」女子たちの声が聞こえる。俺はグッっと唇を噛んだ。神楽坂唯! 許せない……あいつは……絶対に!

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