恐怖
「おい! なにやってんだよ。早く行けよ。イツキ」学生たちが俺を急かす。
「え? 告白するんじゃないの? なにやってんのコイツ」
学生たちの容赦ない言葉が俺に突き刺さる。駄目だ! 一歩も動けない!
駄目だ! 駄目だ! 動けない! 周囲の目が一同に俺に集まる。まるで不審者を見るような目。駄目だ! この目は!
早く行けよ
ビビってんの?
なにあいつ
ヒソヒソ声が俺に聞こえる。俺は全身に冷や汗をびっしりとかいた。駄目だ無理だ。
「よし! じゃあ俺が行こう」と言って獅子雄が一歩前に出た。
おおおおおお!!! とどよめく周囲の人間!「シシオが告白する!」
「スクールカースト一位のシシオが! あの学年一の美少女神楽坂に!」
「うそだろ……ヤバい録画しなきゃ」と言いながらスマホを取り出す周りの学生たち。
「無理すんな。ここは俺に任せろ!」シシオは俺にだけ分かる声の大きさでボソっとそう言った。
「あっ! はあっ!」まるで金縛りから解き放たれたように喘ぐ俺。
獅子雄は神楽坂の前に出る。
「俺のことは知ってるなぁ。神楽坂ぃ!」獅子雄はそう言った。
「あんたのこと? 知らないねぇ。スクールカースト一位? 猿山のボス猿風情があたしに告白しようってか!」神楽坂はそう言う。
「言うじゃねぇか!」と言いながら獅子雄は神楽坂に近づく。一触即発の距離。多くの人が固唾をのんで見守る。
「おい! 神楽坂ぁ!」そう言いながらシシオは神楽坂に顔を近づけた。もう少しでキス出来るレベルの距離だ。おでこはもうくっついている。
「とりあえず3万円ェ!」シシオは財布から3万円を取り出して神楽坂に渡した。神楽坂はそれを受け取る。そしてシシオは神楽坂の顎を手で持ちそして言った。
「最高に可愛いぜ。ユイ」と優しくトロけるような口調で言った。
これは……! 怒声でビビらせてからの優しい口調……! まるで典型的なDV男だ。暴力でビビらせてから優しくするマッチポンプ! これ絶対メンヘラならハマるやつだろ。
「キャーーー!!」と獅子雄のファンが黄色い声を上げる。
「流石だな。獅子雄」ネズオはそう言った。
「あぁあの、緩急のつけ方はシシオにしか出来ないぜ」ネコマルは言う。
そうだ。その通りだ。すると俺は神楽坂がニヤッっと笑うのが見えた。神楽坂の取り巻きもニヤニヤ笑っている。ゾクッ! 俺は一瞬寒気がした。ひょっとして全く効いてない?
「木苺ぉ! 数値は?」神楽坂は木苺に聞いた。
「イケメン度13……雑魚ですね」そう言うと周囲が一斉におおおおおおおおお!! と声を上げた。
まさか効かなかった? 俺の体に戦慄が走る。あのスクールカースト一位の獅子雄でさえ?
「嘘だ! 効いてるハズだ! 頼む! 俺を好きになってくれ!」と言いながら獅子雄は土下座をした。あのプライドの高いシシオが土下座までするなんて。
「嘘だろ。シシオでも駄目なら誰が成功するんだよ!」
「どれだけ男を誑かしたら気が済むのよ! この魔女!」
「もう終わりだ。俺たち男は一生神楽坂に搾取されながら生きていくしかないんだ……」絶望に打ちひしがれる学生たち。
「頼む! 神楽坂! 好きって言ってくれ!」と言いながら獅子雄が土下座をしている。すると
「てめぇ! ユイ様に適当な告白で時間とらせてるんじゃねぇ!」と言って獅子雄を蹴り上げる女がいた。
サクラだ。俺の子供の時の告白の場所に空気を読まずに入って来たサクラだった。
「いい加減にしろよ……お前はもう終わったんだよ!」と言いながら獅子雄の髪の毛を掴んで無理矢理立たせる。
「お前のことをカッコいいって言うのはお前の取り巻きとお前のママだけなんだよ! いい加減気付け! この間抜けがぁ!」と言いながらサクラはシシオにパンチをした。飛び出る血しぶき。
それを見ていた皆がドン引きする。成宮桜。こいつも神楽坂の取り巻きだった。
「おお……女の子が男の子に暴力を振るうなんて……」廊下で見ていた女子生徒が言う。サクラはそれにキレたように女子生徒に突っかかっていく。
「あぁ? 女子が男子に暴力を振るっちゃいけないって法律でもあるのかよ! 男女差別かよ! オイ!」汚い言葉で女子生徒に詰め寄る。
「そんな法律は……そもそも男女関係なく人は殴っちゃ駄目じゃない……」胸ぐらを掴まれた女子高生はそう反論する。
「フン! 差別主義者が」そう言ってサクラはプイッと神楽坂の方に向き直った。
「フン! つまらなかったわね。じゃあみんな行くよ!」そう言って神楽坂は颯爽と歩き出す。
「あっ!」俺は思わず声が漏れた。ピタリと神楽坂の動きが止まる。凄まじいオーラだ。凄まじい美少女だ……こんな凶悪な性格をしておきながらこんなにモテモテなんて……それはもう犯罪だろ。神楽坂。
「なにあなた。あぁ獅子雄の取り巻きか。上の人間には媚びへつらい、下の人間には偉そうに振る舞う中間管理職さんよね」神楽坂は笑いながら言う。神楽坂の取り巻きとヒヒヒヒヒと笑う。
「あっ……」俺は声が出てこない。俺のことを覚えているか。俺はそれが聞きたかった。でも言葉はなにも出てこなかった。
「フン!」そう言うと神楽坂は俺の目の前を通り過ぎていった。女子高生特有の甘い香りがあたりに漂う。やばい神楽坂の香りいい香りしすぎだろ。
すると通りすがりに小苺がスマホのカメラを俺に向けていた。ピピピピビ……と音を鳴らしながら通り過ぎる小苺。
「何点だった? 小苺」神楽坂の取り巻きの一人がそう言うと
「イケメン度3 全然駄目」そう言い残して小苺たちは去っていった。動けなかった。一歩も……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます