獅子雄

なんて奴らだ……俺は立ち尽くす。

「大丈夫か! シシオ!」トウマがそう言ってシシオに駆け寄る。ネコマルやネズオもシシオに駆け寄る。

「あぁ大丈夫だ」そう言って口から出る血を拭ってシシオは立ち上がる。


「シシオ! フラレたけどお前カッコよかったぞ!」トウマが言った。流石だ。ここでちゃんとフォローを入れて周りの人間にシシオは負けてませんアピールをする。流石スクールカーストナンバー2だ。強者への媚の売り方はもはや自分で自分を洗脳しているレベルだ。


「そうだぞ!」

「なかなかできねーわ!」ネズオやネコマルも慌ててシシオのフォローをする。

「そっそうだよ。しっ……シシオはやっぱりカッコいいよ。俺たちのリーダーだよ」俺は言った。トウマはハッっと俺を見る。


先を越された! トウマはそう思ったのだろう。俺がこんな歯の浮くようなセリフを吐くとは思わなかっただろう。こんなあからさまな媚の売り方をするとは思わなかっただろう。ぐぬぬぬぬ……とトウマが悔しそうな顔をする。


「そんなことねぇって! 恥ずかしいからやめろってお前ら!」と言いながら俺に軽くパンチをしてくるシシオ。顔が赤くなっている。効果はてきめんだ。どうやら俺の言葉はクリティカルヒットをしたようだ。


しかもこのパンチ。これは明らかな俺に対する愛情表現だった。男ならではの……というか男らしさにこだわりが強いシシオならではの愛情表現だ。お前には無理な領域だな。トウマ。俺はトウマを見下ろした。トウマは悔しそうな顔で俺の表情を見上げる。俺はドヤ顔をしていただろう。


「イツキ。お前助かったよな。シシオが行かなかったらお前笑いものだぜ? シシオがお前の代わりに恥をかいてくれたんだからな。お前シシオにちゃんと感謝しろよ。イツキ」と突然ネコマルが俺に言った。ドキンと心臓が止まりそうになる。全部見抜かれていた! 全部! ネコマルに!


「あっ……ああ……」俺は口籠る。


「え? ネコマルなに言ってんの? イツキとか関係ねーぞ。俺が告白したかったからしただけだぞ」とシシオはとぼけるように言う。

「え? あっ……」ネコマルはしまったといったふうな表情をする。

シシオは俺にだけ分かるようにパチリとウインクした。

シシオ……俺をフォローしてくれたのか……


俺たちはシシオと一緒に教室に戻った。

「あーーあのブス調子に乗ってんなぁ!」とシシオが叫ぶ。

「自分から告白しておいてブスとか酷い!」

「最低! これだから男は!」とクラスの女が口々にそう言う。


「うぜぇなぁ! テメェらは関係ねーだろ! 負け惜しみくらい言わせろ!」とシシオはその文句を言ってる女子に向かって叫んだ。するとその女たちはビクッっとしてすこすごと引き下がる。


すごすごと引き下がるその様子をみて別の女たちが笑う。


なんて奴だ。さすがスクールカースト一位……これだけの暴言を言っても女子から慕われるとは……


「あーーメチャクチャいい匂いだった! 神楽坂!」シシオはそう言って腕を高く上げる。

「だろうと思ったぜ。だからシシオあんなに近づいたんだろ?」シシオのことはなんでもわかってると言わんばかりにトウマは言う。そしてチラッと俺を見た。完全に対抗意識を俺に向けている。


「さすが銀髪のホワイトレディだな」ネズオがそう言った。

「え? 銀髪の?」俺は言う。


「はぁ? お前知らねぇのかよ! 銀髪のホワイトレディ! ホワイトレディってのはコカインの隠語だよ」ネコマルは俺に言う。


「コカイン……」俺は聞き慣れない言葉に戸惑う。

「コカインのように鼻でスッ! っと吸い込むだけでハイになる。そんないい香りを辺りに漂わせてんだよ。あいつは」ネズオはそう言う。


「だからみんな言ってんだよ。銀髪のホワイトレディってな。透き通るような白い肌。美しい声。もうあいつは歩く合法ドラッグだな!」ネズオは言う。いや、ちょっと待て銀なのかホワイトなのかどっちなんだ。ていうか、そもそもコカインは合法じゃなく違法な。俺は思った。


「そうだ。本当たまんねーわあいつ」とシシオこっぴどく振られたのにそう言う。


「シシオお前。振られたのに嬉しそうだな」俺は呆れるように言った。

「そりゃそうだろ。3万であいつに告白出来るなんて安いもんだろ」シシオは言う。


「お前ソシャゲ廃人みたいなこと言うなよ」呆れながら俺は言った。

「うわあーーーーーんん!!」廊下から叫び声が聞こえる。男の泣き声だ。俺はそっちの方を振り返る。神楽坂に告白した男がどうしようもないくらい泣いていた。


「でな、サクラもあいつ可愛いよな」シシオはそう言う。まるで泣き叫んでる男の声が聞こえないみたいに。

「殴られてんのに。好きだねぇシシオ」トウマはシシオにそう言う。泣いている男のそばを多くの生徒が通り過ぎる。まるで存在していないみたいに……


「シシオ。一言だけ言ってやる。女は顔じゃない。心だ」俺はシシオに背を向けてそう言った。

「あ? オイ! どういうことだよ!」シシオは怒ったように俺に言う。


「もう一言だけ言ってやる。女は顔じゃなくて心だ」俺は言った。

「オイ! なんで同じこと2回も言った! 一言だけって言っただろ! お前!」シシオは俺の背後から叫ぶ。俺は泣いている男のそばに歩み寄る。


「チッ! なんなんだよあいつ」シシオは言う。

「シシオママに反抗期だろ。あいつ」ネズオはそう言った。

「キメェんだよ! お前! やめろ!」そう言ってシシオはネズオにパンチした。


「オイ! 大丈夫か?」俺は泣いている男に言う。

「あっ……あっ……あっ……」男はとりあえず泣き止む。


「泣き止むまでそばにいてやるよ。とりあえず屋上行こうか」俺は言った。

「あっ……うん」男はうなずく。俺はこいつに過去の自分を見たんだ。


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