告白
シャンシャンシャンと廊下から音がする。ん? なんだあの音は。シャンシャンシャン……音がする。
「始めまして。私は神楽坂さんのことが昔から大好きで……」女の声が聞こえる。そして聞こえる女たちの嘲笑の声。
「酷い作文だな……これ神楽坂様にこれを読ませようとするなんてな!」女たちの声が廊下から聞こえる。
は? 一体何が起こってるんだ! これは。俺は廊下の方を見る。シャンシャンシャン……シャンシャンシャン……
「お願いだ! やめてくれ! 俺の恋文を読まないでくれ!」男の声が聞こえる。
「まさか!」俺は廊下に飛び出した。するとそこには神輿に担ぎ上げられた神楽坂がいた。なんと! 神楽坂は僕達がさっき書いた作文を声に出して呼んでいた!
「えーっとなになに……これは早坂冬馬くんね……拝啓神楽坂さま……拝啓だってこいつw」神楽坂は俺の友達のトウマの恋文を読み上げた。
「ひぃやぁ! やめてくれ! あぁ!」トウマが狂ったようにのたうち回って叫ぶ。
「やめろ! 神楽坂! ラブレターを読み上げるのはやめろ!」俺は叫んだ。
「まず神楽坂じゃなくってカグラって呼んでいい? カグラちゃん! こっちの方が好きだなオレ……」笑いながら神楽坂はトウマのラブレターを読み上げる。なんて奴だ。こいつマジか。鬼畜にも劣る所業。そんなことが人に出来るのか。俺は思った。
「おおおおおお……」のたうち回るトウマ! ヤバい……このままじゃ!
「ねぇこれ笑ったから燃やしといて」神楽坂はトウマの作文を手下に渡した。手下はライターで火を付けるとトウマの作文を燃やした。
「あちっ! あちっ!」手下の女はそう言って火のついた作文を落とした。燃えている作文が床に落ちる。
「次は……朱雀樹か……」神楽坂はそう言って俺の作文をめくった。ドキン! と心臓が跳ね上がる。まさか……俺の作文も読み上げるつもりか……そんなことされたら恥ずかしくて登校拒否になるだろ……
「まてっ!」俺は神楽坂に歩み寄ろうとする。だが足がビクッっとしたようになって足が前に進まない。なぜだ。まさか怖がってるというのか?
「始めまして。神楽坂唯様。私特進科の朱雀樹と申します。単刀直入に言います。あなたのことが嫌いです! なんだこれ!」神楽坂が笑う。
俺は思い出していた。小学生のころの夕焼けの教室を。あの日神楽坂に降られたあの日。夕焼けの赤くなった教室のあの日。あの日から俺は変わったハズだった。イケメンになった。髪型のセットも覚えた。人とのコミュニケーションスキルも磨いた。
「正直僕は始めて出会ってからあなたのことが嫌いでした。なぜなら……あなたが美しすぎるから……! ギャハハハハ」と神楽坂は笑っている。
クラスのイケてるグループにも入った。勉強してこの高校にも入った。オタク趣味も封印した。それも全部全部全部! 全部神楽坂に復讐するために! 脱オタして俺は変わった。だが、この負け犬根性だけは変わってなかったのかよ! 蔑まれて笑われて泣き寝入りして、あの日からなんにも変わってねーじゃねぇか! 俺は! 足がガクガク震える。俺は足の震えをなんとか止めようとする。俺はさっきのことを思い出した。また俺はシシオに頼るのか? また俺のせいでシシオに恥をかかすのか?
あの夕焼けの日から! 俺は!
「あなたといると自分が醜い存在のように思えて……」神楽坂は続ける。
俺は! 俺は震える足のまま一歩踏み出した。そして震える足のまま神楽坂のところに向かう!
「だからあなたのことが……え?」神楽坂の声が聞こえるが俺の脳にはもう入ってこない。
「ちょっと! あっ……」神楽坂が近づいてきた俺を見て身構える。
バシーーン! パリン!
俺は神楽坂に壁ドンした。ジリリリリリリリリ!!! 非常ベルの音が鳴り響く。俺がしたのは正確には壁ドンではなかった。俺がドンして押したのは非常ベルだった!
ジリリリリリ!!! 非常ベルが鳴り響く! 俺と神楽坂は向かい合う! 非常ベルを推したまま俺は神楽坂ににじり寄る。神楽坂の表情は一瞬怯えたように見えたがすぐに冷静ないつもの神楽坂に戻った。
「まさか……非常ベルドンとはね……吊り橋効果か……人間の脳みそは不安な時のドキドキと恋愛のドキドキを区別出来ない……!」神楽坂はそう言う。
「2階廊下にて非常ベルが鳴ってます! 今すぐ教員は現場に向かってください!」学内アナウンスが響き渡る。
「え? どうしたの? 火事?」学生がこっちに向かいながら言う。
「どうしたどうした」学生たちが俺たちの周りに集まる。
「ちょっと驚いたけど……これ見てみて」と言って神楽坂は腕を上げる。神楽坂の腕にはスマートウォッチが装着されていた。
「私これで心拍数を測ってる。いつもは平均一分間に50……ほら今現在の心拍数48! 全然ドキドキしてない。失敗だったな。負け犬くん!」と神楽坂は言う。
「黙れ!」俺は言った。
「え?」神楽坂は言う。
「黙れ! 神楽坂! その負け犬にお前はキスされるんだよ! 俺はもうあの時の俺じゃない!」俺は言った。
「ん? 何を……」神楽坂はそう言うとビーーービーーーービーーービーーー! と神楽坂のスマートウォッチが鳴った!
「えっ! なにっ! 心拍数! 55! 56! 57! どんどん上がっていく!」神楽坂は叫ぶ!
◇
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