第15話 魔術武闘
降り立ってみると。この星には何もなかった。しかし魔法の力で人が歩ける地面があり、満天の星が空に広がっていた。
俺はリゲルさんと共にゆっくりと足を出しながら進んだ。
何歩か進むと、目の前に一本の光る柱が出現する。
「何だ?」
と様子を窺うと、やがてその中から人間の姿をしたスラファトが現れた。そのスラファトの形相は恐ろしいなんてものではなかった。一年前に『星の祭典』で見たあの表情以上に怒りが現れているようだった。
「人間が俺の星に何の用だ」
腕を組んで威圧してくるスラファトに、俺も負けじと両手の指を鳴らして対抗する。
「琴、シェリーを助けに来た」
「助ける? 何を言っているんだ。シェリーは俺の娘だ。娘を守るのは父親である俺の役目。それにシェリーは今ベガの看病中だ。お前がシェリーをどうしたいのか知らんが、シェリーを連れ出すことは俺の妻を殺すことになるんだぞ。わかってるか」
その言葉のあと、スラファトの背後で二本の光る柱が出て来て、そこから琴と母親のベガさんと思われる美しい女性が姿を現した。
ベガさんは目を閉じ、苦しそうに寝ているが琴はこちらに気づく。
「琴!」
琴も何か言おうとするが、スラファトが彼女を睨みつけると、琴は下を向いて黙り込んでしまう。
「シェリー、もともとはお前が悪いんだぞ。お前がこの人間を巻き込んだんだ。お前がベガを助けるための魔法を学ぶと言ったから俺はお前を送り出したんだ。それが人間のような穢れた生命体に恋をして……。人間と星が関わり合うほど愚かなことはない。そのお前の愚かな行いでお前の母さんは死ぬかもしれないんだぞ」
「それは心配ない」
とリゲルさんが俺の横に出て来た。
「私は治癒魔法が使える。反友好派のために魔法を使うのは友好派トップとして不本意だが、私にとって星も大切だ。そのために今日は私も来た」
リゲルさんに対してもスラファトは鼻で笑い、気持ちの悪い魔女だ、とぼやく。
「じゃあ、お言葉に甘えて、あんたはベガの治療をしてくれ。俺は人間の相手をしてやろう。いかに人間が弱いか、お前が無力か教えてやらないとな」
「お父さんやめて!」
心配そうに声を上げる琴に、俺は優しく声をかける。
「俺は大丈夫だ。お前も大丈夫だ。俺がお前を救ってやる」
「昴介……」
「口先だけじゃないといいが!」
スラファトが振ってきた拳を俺は綺麗に回避し、スラファトの背後に回る。そして超パワーによる蹴りを背中にくらわせる。すると、スラファトの体がよろめいた。
効いた!
「……前より鍛えて来たようだな」
「当たり前だ。もうあんな思いはしたくない」
すぐに態勢を立て直したスラファトは俺の方に向き直り、今度は突進してくる。なんとか避けたが異常な速さだった。しかし、負けてはいられない。少しでもスラファトを不利にするため、氷結魔法で地面に氷を張る。これで突進の際、足場が滑りやすくなるはずだ。ここまでは作戦通り。
『まずはあの巨体の動きを悪くするために、地面に氷を張る。上手く動けなくなるだろうから、そこを超パワーで突く。吹き飛ばした勢いでそれなりのダメージを与えられるはずだ。そこで火炎魔法を使ってじわじわと体力を削りながら超パワーで高くまで持ち上げて、空から落とす。予想外のことも起きるかもしれないけど、基本この流れを意識して戦えば絶対に勝てる!』
俺は銀河鉄道内でリゲルさんから聞いた作戦を思い出す。今は上手くやっているが計算外のことは必ず起こるだろう。それに気を取られずに、いかに冷静に戦況を見て動けるかが鍵だ。
氷に気が付いたスラファトは勢いを緩める。しかし滑って立てない。巨体によるバランスの悪さも相まって滑稽な動きになっていた。
俺はそれを好機に、スケート選手のように地面を滑走する。そしてスラファトの腹を滑った勢いを加えた超パワーで蹴り上げた。
「うっ!」
いくらスラファトのような重量級でも超パワーの力をもってすれば、ピンポン玉のように巨体が吹き飛ぶ。最初にスラファトと戦ったときには持っていなかった、俺が死ぬ気で手に入れた力だ。簡単に対応されては困る。
スラファトは、ある程度飛ぶと、今度は大きな質量を抱えて降ってくる。自分の体が自分を痛めつけるセルフ質量攻撃。勢いのまま体が地面に叩きつけられ、その振動が俺の体にまで伝わってくる。これでかなりのダメージのはずだ。今のとろ誤算なし。しかし油断してはならない、と自分に言い聞かせる。
「やるじゃないか……」
スラファトはゆっくりと立ち上がる。そこで俺は気づく。スラファトが叩きつけられたところにひびが入っていた。氷が割れている。くそ、俺のミスだ。
「わりと痛かったが、こんな氷も割ってしまえば怖くないって気づいたぜ。ありがとよ」
スラファトは思いっ切り地面を踏みつけると。そこからさらにひびが広がり、全ての氷が砕けてしまう。
ほら。エラーが来た。
俺はもう一度氷を張ることを試みる。もっと厚い氷だ。
地面に手を当て、氷のフィールドを作り直す。
「二度も同じ手を使うなよ。そこはあまり依然と変わっていないな」
スラファトは新たな氷をさっきよりも強く踏みつけ、勢いよく氷が割れる。跳ね上がった破片が俺のところにも飛んできて、頬に擦り傷ができるが治癒魔法で瞬時に回復する。
さて、どう戦っていくか。
「昴介……」
昴介とスラファトの戦いが気になっているシェリーにリゲルは、
「昴介君なら心配ない。強くなったからね。だから、今はお母さんの治療に集中するんだ」
と、声をかける。
「……はい!」
シェリーもそれに従い、濡れたタオルでベガの体の汗を拭く。
そしてリゲルは治療魔法を使ってでベガの治療を進めた。
現在のベガの状態を確認。
意識不明。かなり重体だ。ここまで悪くなっているなんて思っていなかった。別に治療魔法以外にも、薬を探すとか他にも方法はあったはずなのに、なぜ放っていたんだ……。
あまりに悲壮感が漂う顔をしていたためか、シェリーがリゲルに訊く。
「そんなに、悪いんですか。お母さん、もう治らないんですか」
シェリーの目に涙が浮かんでいる。
正直、厳しかった。魔法をもってしても、完全に治せる自信はなかった。しかし、それをシェリーに伝えたら、きっと母より地球を選んでしまった自分を責めてしまうだろう。
リゲルはシェリーの問いに対し、大きく頭を横に振った。
「大丈夫。絶対に治してみせるから」
シェリーをこれ以上、自己嫌悪させるわけにはいかない。ベガの病気を知っていたうえでシェリーを地球へ送り出したのは自分自身なのだ。私の判断にも大きな責任がある、とリゲルは思った。けれど一番はスラファトだ。なぜ何もしなかったのだ。仮にも愛した相手だろうに、なぜここまで見放していたんだ。
とにかく、今は治療に集中だ。
リゲルとシェリーはベガの治療を続けた。
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