第4話 星の祭典
「それでは、これより『星の祭典』オープニングセレモニーを行います。まずは『星の祭典』協会のリゲル会長より挨拶です」
司会が進行している間、袖で待たされている俺の側を、背筋を伸ばしたリゲルさんがステージの方へ歩いていく。
「みなさんこんにちは。会長のリゲルです。今年もこうしてみなさんと『星の祭典』を開催できることを嬉しく思います。そして、今年も地球から人間のゲストが来てくださっています。彼は人間の代表として、今日、人間への感謝と友好を共に祝ってくださるでしょう!
それではゲストの紹介です。地球の日本という地域から来た犬飼昴介君です!」
リゲルさんはそう言うと俺の方を見て、「こっちに来い」というジェスチャーを俺にしてくる。正直、まだ挨拶は思いついていないが、まあ何とかなるだろう。正直に思ってることを言えばいい。
そう考えながら俺はリゲルさんのようにゆっくりとステージの中央へ歩いていく。
俺がスポットライトの下に出ると、ステージ前に集まった星たちから一気に歓声があがる。まるで音楽フェスに出演したような気分だ。地球でも経験したことがないことに俺は少し緊張してしまう。
俺が聴衆の方を向くと、リゲルさんは、
「それでは昴介君に挨拶をしてもらいます」
と言ってマイクを渡してきたのでそれを受け取る。マイクのスイッチを確認
し、俺は口を開いた。
「えーと、みなさん、こんにちは。犬飼昴介です。最初はどこに連れて行かれるのか怖くてしょうがなかったんですけど、来てみるとすごく明るい雰囲気で、これから屋台を見て回るのを楽しみにしています。よろしくお願いします」
こんな当たり障りのない挨拶でいいのかと思ったけれど、俺は盛大な拍手喝采を受けた。それはもう勢いに吹き飛ばされてしまうほどの。
そしてリゲルさんは俺のマイクを奪い、どこから出してるんだという大声で叫んだ。
「『星の祭典』始めるぞおおおおおおおおおおおおおおお!」
それに呼応するように他の星たちも拳を突き上げて叫ぶ。
「おおおおおおおおおお!」
本当に人間そっくりだった。
オープニングセレモニーの後、リゲルさんから自由に会場を回って来ていいと許しをもらい、俺は一先ずスタッフルームを出る。セレモニーが終わってしまえば案外放任主義なんだな、と感じた。
「やあ! 昴介青年! 待ってたよ!」
俺を出迎えたのは駅のすぐ側の店の二人、
「あ、イザールさんとエニフさん」
二人は俺が名前を憶えていたことに喜び、両肩に腕を回してくる。
「覚えてもらえてて光栄だ!」
「この俺イザールとエニフが昴介青年を案内して差し上げようと買って出たのだ!」
「それはありがたいです」
と、俺は素直に感謝する。実際大通りを一直線に歩いてきたがかなりの距離があった。それに所々細道があり、そちらにも店があった。とても一人で上手く回れる広さではないので案内役がいるのはありがたい。
「でも昴介青年、後でうちの店にも来てくれよ?」
またイザールさんが俺の耳で囁き、
「もちろんですよ」
と、俺も笑顔で返す。その俺の反応に「良し!」とイザールさんとエニフさんは拳を作る。
「それじゃあ昴介青年、何か食べたいものはあるか?」
「食べたいものか、そうだな……」
と、考えてみる。せっかく『星の祭典』に来たんだ。ここでしかできないことをしたい。
「あ、この祭りで人気のものを食べてみたいですね」
「そりゃあ、あれだな」
「あれしかないな」
そう言って二人は顔を見合わせる。
「「ミラのとこの炒飯だな」」
ミラ、聞いたことあるな、と記憶の箪笥を漁るとどうにか思い出すことができた。ステージに来るまでに話しかけて来た中国系美人の人だ。
「あそこの炒飯は絶品だ。そして何より店主が美人だ」
「見習いの子も可愛かったぞ確か」
「シェリーのことか。あの子はいたりいなかったりだからな」
「まあ、とりあえずそこに連れて行ってください」
ここからミラさんの中華料理屋は思ったより近かった。しかし、初めて通る道よりも二度目以降の道のりの方が体感距離は近いという。だから実際に距離はかなりあるかもしれない。そんなことはどうでもいい。
ミラさんの中華料理屋は屋台、というより完全に店だった。外装もしっかりしており、中国王朝の宮殿のようだ。
俺たち三人が中に入ると、豪華な店内に中華料理のいい香りが漂い、食欲をそそる。そして店主であるミラさんが出迎えてくれた。
「あら、昴介さん! いらっしゃい! まさか私のお店に来てださるなんて! さあさあ中へどうぞ!」
と、ミラさんは俺の腕を取る。腕にかなり大きなものが当たっているが何も気にしないことにしよう。
「昴介青年。この店は人間ならどれもタダで食える。好きなだけ食うんだぞ」
エニフさんのその言葉に対しミラさんが注意をする。
「あら、タダだなんて言葉使わないでっていつも言ってるでしょ。下品だわ。『無料』ですよ。いい? 『無料』」
「いいじゃないか。俺は『タダ』って響きの方が好きだ」
そう言いながら席に着くエニフさんにミラさんは溜息をつく。
「まあいいわ。昴介さん、何が食べたいのかしら。本場の地球で鍛えた私が腕によりをかけて作って差し上げるわ」
ミラさんは袖をたくしあげ、綺麗な白い腕を見せてくる。それよりも驚いたことは、
「ミラさん、地球来たことあるんですか?」
「ええ、もう何十年も前ね」
「地球に行ったことあるといえば」
ミラさんの地球の話を少し聞きたかったのだが、イザールさんが割って入ってくる。
「シェリーも行ったことあったよな」
「ええ、最近行ってたわね。そういえば、今年はまだ来てないわね。まあ、あの子も家庭が大変だからね。もしかしたら今年は来ないかも」
と、ミラさんが入り口の方に目を向けると、ガラガラと音を立てて見覚えのある、とても強く見覚えのある女性が入ってくる。
「噂をすればね。シェリー、いらっしゃい」
「すみません、遅れました!」
と、シェリーと呼ばれた人と俺は目が合う。いいや、シェリーは俺が知っている彼女の名前じゃない。
「……琴?」
何度も呼んだ、あの名前を久しぶりに口にする。
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