第16話 愛する人を守るために
「氷が駄目ならこれはどうだ!」
次は火炎魔法で、スラファトに火球を放つ。俺の体の大きさほどの火球に仕上げて来た。もう今までの俺ではない。しかし、それも当然のようにスラファトは回避する。
「火などが俺に効くと思ってるのか。くだらん」
スラファトは飛び上がると、着地の勢いに任せて俺に拳を向けてくる。
今度は避けきれない。だからといってあの質量攻撃を直でくらうわけにもいかない。
俺はすぐさま、超パワーで拳を受け止める姿勢をとった。脚にも力を入れ、衝撃を吸収する準備をする。
そして、俺の手の平にスラファトの拳がぶつかる。
「うっ!」
体勢を崩しそうになる。耐えられない、と筋肉が悲鳴を上げている。 超パワーを使って防御していても、スラファトの質量攻撃直接受けていることに変わりはない。長時間の耐久は無理そうだ。
「氷も駄目。炎も駄目。力も駄目。やはりお前は俺に勝てない」
その言葉を、俺は思わず鼻で笑う。
「ただ、氷を張って、ただ火の玉出すだけの魔法って思ってるなら、それは随分と浅はかな考えだな」
「何?」
こいつはまだ知らない。俺が一年間で鍛え上げた、魔法の応用力を。スラファトに及ばない攻撃力を補うために、さらに魔法を使いこなす技だ。
負けて、たまるか!
背中で火炎魔法を発動し、ジェット噴射のようにして体を支える。それによっ
て急に楽になった。
さらに火力を上げ、俺の力の方が上回り出す。
「おらっ!」
スラファトに馬乗りになった俺は拳を構える。しかし、スラファトは俺のその拳を掴み、俺の体を自分から引きはがした。再び立ち上がり、俺を投げ捨てる。俺も上手く地面に着地し、叩きつけられるのをなんとか避けた。
「まあ、考えたじゃないか。結果的に俺にダメージは与えられていないが、試行錯誤したことは褒めてやろう」
「いつまでそんなことを言ってられるかな」
俺は地面に手を当て、もう一度氷を張る。氷のフィールドを完成させ、さらに高さ三メートルくらいの大きな氷の塊も無数に出現させた。
俺が近くの氷塊の陰に隠れると、
「何の真似だ」
と、スラファトの声が聞こえてくる。
「障害物だ。お前のような巨体は、この大きさのものがたくさんあれば、動きが制限される。壊すにも時間が食われるしな。俺にとっては、お前から身を隠すためにも使えるし、上れば上から攻撃を加えられる。だからせいぜい頭の上に気をつけるんだな」
「小賢しい奴め!」
スラファトが上を向いた瞬間、俺は手に持っていた氷の破片を超パワーでスラファトの脚に投げつける。その破片は奴の脚に刺さり、痛みのためか、バランスを崩させることに成功した。
「気をつけろって言ったけど、上だけ見てればいいってものじゃないだろ」
背中火炎魔法のジェット噴射でスラファトの近くの氷の塊に上り、そこから倒
れているスラファトを見下ろす。
「愛する人の父親には敬意を払わないといけないと思うけど、いくら父親でも俺の好きな人を傷つけるなら許してはおけない」
俺は氷結魔法でスラファトを氷漬けにしていく。スラファトは自慢の筋肉で自分の体を包む氷を割ろうとするが、上手くいかないようだ。狙い通り。
「自分が言ったんだろ。同じ技を使うなって。お前の周りにある氷の塊はただ障害物の役割を果たすだけじゃない。お前を氷漬けにするときに、それらも同時に氷漬けにすることで、短時間で厚い氷を作れる」
我ながらよく考えたものだと思った。
俺は地面に降りると、超パワーを発動させ、スラファトの入った氷の塊を持ち上げる。
「抜かしたな」
俺はそう吐くと、足にも超パワーを集中させ、高く飛び上がる。
高く、高く、加速が止まるまで。何千メートルも上へ。
そうして加速度がゼロになると、火炎魔法のジェット噴射と超パワーを掛け合わせ、俺が出せる最高の初速でスラファトを地面へと投げた。
その勢いは光の速さと言っても過言ではなかった。
隕石さながらに燃える氷が地面に衝突し、まるで噴火が起きたかのように砂煙が上がった。
俺はゆっくり地面に足をつけると、動かないままでいるスラファトに近づいた。
「俺の勝ちだ」
そう言って見下ろすと、スラファトは腕を伸ばし、俺の脚首を掴んだ。
「人間……、これが地球という星が生んだ生命体か」
「そうだ。地球人の力を思い知ったか?」
「いいや。俺は星だ。お前は忌まわしき星が生み出した産物。まだお前は星の恐ろしさを知らない。だから俺の勝ちだ」
「は?」
スラファトは頭から大量の血を流していたが、その傷は一瞬のうちに治る。そして軽々と体を起こした。
まだやるのか? と俺が火炎魔法を繰り出そうとする。それでもスラファトは動じない。
「人間、お前は俺を怒らせた。だから、お前を絶望させたい」
「何をする気だ……」
スラファトは口元を少しだけ上げて笑った。
「地球を壊す」
今、あいつは何と言った……?
地球を壊すって言ったのか……?
スラファトは体を光らせ始めると、だんだんと地面へと潜り始めた。否、人間を模した姿から本来の姿へ戻っているのだ。完全に姿が見えなくなると、星空にスラファトの大きな笑い声が響き渡る。どこから聞こえてるのかわからない。声に囲まれているという表現が近かった。
その刹那、地面が揺れ、天が動き始めた。
「何が起きているんだ?」
「昴介君!」
リゲルさんが声を荒げ、俺の名を呼ぶ。
「リゲルさん! これは一体……」
「この星、地球の方向へ進んでる! この速さなら一日くらいで地球へ衝突してしまうぞ!」
「一日でだって? 地球から六百光年くらい離れているってリゲルさん言ってましたよね!」
「だから、六百光年分の距離を一日で到達するスピードで動いているんだ! これじゃ地球が塵になるどころか、太陽系まるごとパーだよ!」
「そんな!」
それを聞いた琴は地面に手を叩きつけて叫んだ。
「お父さん! ねえやめて! 地球を壊すのはやめて! なんでそんなことがで
きるの!」
どうにかして止めなければいけない。
超パワーなら、いやでもこの速さだぞ? せめてリゲルさんの力を借りたい。
でも彼女はまだベガさんの治療中……。
俺が、やるしかないんだ。
「琴、リゲルさん」
俺は覚悟を決めた。
たとえ、身が滅ぼうとも地球と琴を守る。
必ず帰ると約束した白川おじさんには申し訳ない思いでいっぱいだが、俺は目の前の大切な人を守り抜きたい。
それが今俺にできることだ。
リゲルさんと琴が俺を見上げる。
「俺が止める」
リゲルさんは俺のその言葉を聞くと、俺の肩に手を置いた。
「……今の昴介君ならできる。頼りにしてるよ」
「任せてください」
「昴介!」
リゲルさんが俺から離れると、琴は俺の手を握る。
「絶対に、絶対に死なないで」
「死なないさ。君のお父さんを止めるまで死ねない。だから待っててくれ」
琴の目に涙が浮かぶ。おいおい、と言いながら俺は指でその涙を拭った。
「泣くなよ。最後の別れみたいじゃないか」
「だって……」
「もう離れ離れにならねえよ」
俺が琴の頭を撫でると、ようやく彼女は泣き止んだ。
「絶対にもう失ったりしないよ」
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