見て見ぬふりをしていた自分と向き合うお話
- ★★★ Excellent!!!
八女市多智花町で茶農家を営む家に生まれた、香月壱弥はイケメンの好青年ですが、色々なものを腹に抱えています。
恋愛オンチで彼女と長く続かず、恋愛感情が良く分からない。
家業を継ぐために実家を出て、故郷を思うが故に故郷を離れることを決めた心境。
全国高等学校ラグビーフットボール大会(通称「花園」)で準決勝進出を果たしながらも、家業を継ぐために引退を決意した意思。
親しい友人から寄せられる想い。
そのような様々な想いを秘めて生きている壱弥は、町を守る産土神社で、自らを『神』だと名乗る子供に出会います。
毎年神社で行われる神幸祭で『名』をもらって初めて真の神となるその子は、まだ名前がありません。
仕方がないため、壱弥はその子を『ナナシ』と名付けます。
この物語は、壱弥がナナシとの交流を通じて、見て見ぬふりをしていた自分と向き合うお話です。
『他人の気持ちを理解するのは難しいのに、その他人の言葉が、一番の安心材料』だと言う壱弥。
『しかし、それは周りとの信頼関係をしっかりと結んでいるから』だと言うナナシ。
この言葉の掛け合いは、本作の魅力のひとつを如実に表していると思います。
しかし同時に、本作では『自分の気持ちを理解する』のも難しいことであると描かれます。
自分と他人の気持ち。
それは正にナナシが言う通り、周囲との信頼関係を構築していなければ、気持ちの交感に意味は成さないかと思われます。
信頼関係を構築するには、結局のところ、どのような形であれコミュニケーションを取るしかない。
しかし、壱弥は『自分のことを考えるのは面倒なんだよ』と言って、自分の気持ちが楽な方に逃げていると言います。
そんな壱弥をナナシが言葉で導いてくれます。
強引に諭すのではなく、壱弥が何から目を背けているのかを少しずつ教え、壱弥が理解して行動を起こすまで、ちゃんと見守ってくれます。
この物語は、神様との交流を通じて、大切な人との関り方を学び、壱弥が自分自身と向き合っていくお話しです。
是非、お読みになり、その交流を楽しんでください。
オススメの一作です。