自罰と許しと情の物語
- ★★★ Excellent!!!
舞台は王朝が支配する中華をモチーフにした、皇室と貴族階級が統治する国・灌(かん)。
前世は21世紀日本のオタク・昕晨星は、色褪せない初恋を胸に閉じ込め、皇帝からの要請で後宮入りします。
時期は、灌・初代皇帝が倒れ、後継者争いで揉め、反乱もあちこちでおき、ようやく平和が訪れた頃。
灌王朝二代皇帝の妃候補として後宮入りすると、なんと、現皇帝は以前昕(きん)家で共に暮らしていた友達の直くん。
晨星と直、そして晨星の初恋相手・舜雨。
昕家で共に暮らし、仲良しだった三人。晨星と舜雨は両思いで、直はてっきり既に結婚しているものと思い込んでおりましたが、ところがどっこい。二人の想いと事情は入り組んでおり、互いの想いも明かしていないときたもんです。
二人が大好きな皇帝・直は、二人をくっつけるために色々と画策して……。
という筋書きでコメディちっくに書かれる訳ですが、実際のところそんなに甘い設定でもありません。
内乱により流れた血、蔓延る暴力、性的搾取、律令に基づく身分制度や家父長制などの不平等。
前世・21世紀日本の記憶を持つ晨星にとっては受けいれがたい現実です。晨星は時に傷つき、時に反発し、時になんとかしようと模索します。落ち込むこともあり、苦しむこともありますが、意に沿わないことに対してはハッキリと拒絶や抵抗を示せる強さを持っています。
晨星は苦悩の中で理想的で平和な『物語』を模索しますが、この世界の倫理・道徳では受けいれられないものもあります。しかし、そんな『物語』を肯定してくれた人のために必死に歩みを進めます。
一方の舜雨は、元は殺手(暗殺者)であり、現在では昕家の人間として武官をしています。殺手としての過去があり、更には晨星を殺害しかけたことから自身の本心を律しています。
晨星と舜雨。二人とも自罰的なところがあり、それが二人を隔てる大きな壁となっています。
そんな二人の間に入り、仲を取り持つ皇帝・直。
皇帝でありながら晨星以外の妃(候補)を後宮に入れず、晨星のとある身分上の秘密もあり、なにやらきな臭い陰謀がうずまく中、はたして晨星と舜雨の恋の行方は――?
ただの恋物語ではない、情にあふれる物語。
晨星と舜雨、そして皇帝・直。三人の物語の行く末をご堪能ください!