緩やかに紡がれる、物語と縁

 のんびり。まったり。ほっこり。じんわり。そっと、前向き。

 これらの言葉にピンと来た方へおすすめしたいのが、本レビューでご紹介する、えむら若奈さんの『ナナシの神様』です。

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 私自身、元々ほっこりして優しい物語・神様が関係するお話が好きということがあり、この物語に触れました。どストライクでした。私と同じ趣味の方がいらっしゃったら、絶対に刺さると思います。
 普通の人間である主人公・壱弥(いちや)さんと、名前は「まだ無い」という神様・ナナシ。彼らのやり取りがとても楽しく、また彼らを取り巻く人々の人間模様にも、とても心動かされます。描かれる人々と地域の色がとても丁寧で、暖かく読みやすいです。
 緩やかに紡がれる物語に浸る時間は、どこか現実の時間もゆったりになるようで、とても心地いい感覚を味わえると思います。

 そして緩やかに紡がれるのは物語だけではありません。
 物語に登場する人々の「縁」です。
 メインとなるキャラクター、それぞれの回でキーになるキャラクター、キーではないけれど、壱弥さんを暖かく見守ってくれる地域の人々──……。こうした人物たちが織り成す縁は、自分の身近にある縁のことも感じさせてくれます。こうして人々の世界は形作られるのだな、と。
 そして何より、壱弥さんとナナシの縁。偶然か必然か。いずれにせよ、素敵なものであることに違いありません。

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 おすすめです。皆さんもぜひ読んでみてください。

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