第17話 家族

 程なくして二人が引っ越してきた。

二人の荷物は、思ったよりも少なく、すんなりと客間に収まった。

親戚中、皆 驚いていたが当人達は自然の成り行きだった。

我が家に久し振りに足を踏み入れた紗綾さんは、やっぱり最初と同じ「修一さんの匂い」と呟いて少し泣いた。

しばらくすると、落ち込みがちだった紗綾さんも、少しずつ元気を取り戻していった。


 そして、私は新たな日課を手にした。

私の部屋で修ちゃんの写真と向かい合って、一杯飲みながら報告するのだ。

日々の出来事を、修也君の成長を。




 その後、紗綾さんと私は、二人で助け合って修也君を育てた。

修也君が病気になると、休める方が仕事を休み看病をした。

園の送迎も助け合って行った。

3人で手をつないで買い物に行き、3人で旅行も行った。

紗綾さんは、入学式、参観日、運動会、卒業式、全ての行事に私を連れていってくれた。

 

 修也君は紗綾さんの事は「ママ」と呼び、私のことを「ユカちゃんママ」と呼んでくれた。二人での子育てはとても楽しかった。

たまに、イヤイヤ期や反抗期に壮大な親子げんかをしたりしたが、往々にして順調なだった。


 紗綾さんと私、お互い彼氏がいる時期はあったが、不思議とどちらも結婚は考え無かった。その頃にはいつの間にか、家庭はこの家と思っていたのかもしれない。

家庭に恋愛は持ち込まない、持ち込みたく無かった。

だからといって、紗綾さんと私に恋愛感情があるかと言えば、無かった。

 ただ、私達はいたわり合って、お互いを大事には思っていた。

だから、修也君が高校に入学する時、私達は今後の事を考えて、養子縁組をすることにした。

 本当は結婚したかったのだけど、日本の法律では同性婚は認められていない。

でも結婚しないと、お互いに何かあった時、家族として認めて貰えない。

日本には家族でないと得ることのできない権利がいっぱいだ。

そんなのは、絶対に嫌だった。だから紗綾さんと私で養子縁組をした。


 成長とともに修也君は私達の呼び方を「母さん」と「有加ママ」と変えていった。

私は自分では生むことが出来なかったが、修ちゃんを通して子供を授かったのではないだろうか?

私達はいつの間にか本当の家族になっていた。


 私はまた、家族を手にいれた。

失った帰る場所を見つけた。

一度は手からこぼれ落ちた幸せを、再び手にすることができた。

今、とても幸せだ。


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こぼれ落ちる日々 panda de pon @pandadepon

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