第14話 小春日和

 その日の夜にお通夜、翌日葬儀とあっと言う間だった。

遺影の中で微笑む彼は、私の知らない彼だった。きっと再婚してからのものだろう。


若すぎる彼の急死は、多くの人々の悲しみを誘った。

皆一様に悲しみに暮れる様が逆に現実味を失わせ、私は自分の身の置き所に困った。

小さい修也君を連れた紗綾さんの姿だけが、悲しみの中一人たたずむ孤高の未亡人のようで、リアルだった。


私は元妻なので、目立たぬ様お焼香をして、そっと帰った。

実際、私の彼を見送る儀式は、我が家に帰ってきたあの最後の日済んでいた。




 自宅を片付けようとした時、修也君が寝た布団がそのままになっていた事に気付いた。布団を干そうと持ち上げた時、修也君の匂いがした。

私はその場で布団を抱きしめて泣いた。

こんなかわいい子供を、遺していった修ちゃんの無念を思って涙を流した。




 その後、何日過ぎたか分からなかった。

日々、図書館と家を往復し、たまにスーパーへ。

まるで味の無いガムを、ひたすら噛み続けるような日々を送っていた。


 気が付くと朝晩と肌寒い季節になっていた。

紗綾さんから、四十九日の法要、納骨式の案内がきた。

私は、遺骨になった修ちゃんを知らない。

火葬場には行かなかった、、、行けなかった。

修ちゃんが骨になるのを待つだけの時間なんて、冗談のようだったから。

 

 それなのに、今更、遺骨になった修ちゃんと対面するのも如何なものかと、出席を迷ってた。

そんな時、紗綾さんから電話がかかってきた。

「ごめんなさい。急に電話して、用件は他でもないの。

修一さんの四十九日の法要なんだけど、出席して貰える?」

私は、欠席するつもりでいた。

でも、脳裏に夢で逢った修ちゃんの

『修也と紗綾さんの力になって貰えると安心です』との言葉が過ぎった。

「ええ、出席させて貰うわ。」と答えていた。


              


 明日は納骨だ、週末で体は疲れていたのに、なかなか眠れなかった。

ふと、最近忘れていた夜のビールを思い出した。

上着を羽織り、ビール片手にベランダのサッシに腰をおろした。

身震いする寒さだったが、修ちゃんが亡くなって以来、不抜けていた私は正気に返ったようだった。

私は顔を上げ、空を見上げた。雲一つない星空だった。


 当日は小春日和だった。

久しぶりに逢う修也君は、以前より語彙が増えていた。

紗綾さんは、こちら不安になるほど痩せ細っていた。

しかも、気丈にに振る舞う姿が痛々しかった。

紗綾さんに話し掛けたかったが、親戚への挨拶で追われる紗綾さんに、挨拶程度しか交わす事が出来なかった。

修也君は、紗綾さんの側を片時も離れなかった。


 法要の数日後、やはり紗綾さんの様子がどうしても気になった。

私は、樹雨を訪ねてみることにした。

お店は開いていたが、紗綾さんの姿が無かった。

勇気を出してオーナーで紗綾さんのお母さんに、声を掛けた。

「ごめんなさいね。せっかく訪ねてくれたのに。

修一さんが亡くなってから、気持ちが沈んでなかなか店に出られないの。

私は店があるから側について居てやれず、心配してるのよ。」


私はお礼を言って店を出た。そして直ぐに紗綾さんに電話をした。







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