第16話 「待ってる」

 あれから2週間位経っただろうか。まだ紗綾さんから連絡が無い。

私はやっぱり、不躾な事を言ったのだろうか?と不安になっていた。

そんな時、紗綾さんから電話

「お返事お待たせして、すみませんでした。シェアハウスの件、是非お願いします。

母の説得に思ったより時間が掛かってしまって。

でも、もう大丈夫です。色々話し合って最後には笑顔で納得してくれました。」

「ありがとう、紗綾さん。楽しみに待ってるわ。」

修也君と紗綾さんと暮らせることが、私はとても嬉しかった。



 幸い、家から保育園も駅1つ。自転車でも通える距離だった。

引っ越しまで2週間、私は二人を迎える為の準備を始めた。


 色々と悩んだけど、二人の部屋を客間に決めた。

比較的広く、日当たりが良い。

リビングと隣り合わせなのがプライバシー的には難点かもしれないけど、家事の合間も子供に目が行き届くという利点があった。


さて、客間のクローゼットの荷物を書斎に移すそう!


 久しぶりに書斎に足を踏み入れた。

修ちゃんが使っていた書斎は、主が出て行った日のまま時を止めていた。

ふと、埃の匂いの中に、修ちゃんの残り香が鼻をかすめた。

薄くなっていく残り香が、修ちゃんの不在をものがたり寂しくなる。


 ふと机が残っていることが気になった。ほとんどの荷物は持って出ていったけれど、机は置いていった。

たいした物は残っていないだろうとは思いつつ、念の為引き出しを開けた。

何故か引き出しには、修ちゃんの期限切れパスポートや度が合わなくなった眼鏡。

パスポートは学生時代かなぁ。若い!

あっ、この眼鏡は結婚前の物かもしれない。懐かしいなぁ。

本当、どうしてこう痕跡を残してくかなぁ。


 修ちゃんの痕跡を愛おしく思いながら、更に引き出しを開けていった。

すると、一つの引き出しから一枚の写真が出てきた。

修ちゃんの大学生の頃の写真だった。見覚えがあった。


 まだ付き合う前、既に修ちゃんに恋心を抱いていた私。

どうしても笑顔の写真が欲しくて、研究室で皆の目も気にせず、嫌がる修ちゃんにつまらないギャグを連発した。根負けした彼が笑ってくれて撮れた写真だった。

 どこか困った様な笑顔で、少しカメラから目線を外している所が修ちゃんらしかった。

懐かしさで心が温かくなった。どこかに飾ろうかとしていると、写真の裏にかすれた文字が見えた。


 何だろう?よく見ると、かすれてはいるがなんとか読み取れた。

『待ってる』と書かれていた。

そのとたん、最後の夜の夢が思い出された。

これは、あの約束の答えなんだ。

待っててくれてるのね、ありがとう。修ちゃん。

私は写真を抱きしめて泣いた。









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