第3話 終わりの始まり
それからも修ちゃんは変わらなかった。
私が彼女の出産を知ったのは、桜が散り新緑の綺麗な頃だった。
きっかけは、いたって簡単。あの香りに加え微かにミルクの匂いが混じるようになったからだ。
その匂いに私は、焦燥感を持った。修ちゃんに置いていかれるのではないかと。
それと同時に妬みも感じた。幸せそうなミルクの匂いをまとい、私の元の戻ってくる修ちゃんに。
ある日、私はどうしても修ちゃんの子供が見たくなった。
日増しにその思いは募り、雨が続いたある晴れ間、意を決して彼女のカフェに行くことにした。
外から見る限り、カフェに彼女の姿は無かった。
諦めて帰り掛けた時、カフェの上の階に洗濯物がたなびいているのが視界に入った。
住居になってるのかとよく見ると、その中に赤ちゃんの衣類を見つけた。
水色のかわいいロンパースだった。
あぁここが住まいだったのか。耳を澄ますとちょうど中から赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。
声を聞いてしまうと、やはり姿見たくなった。居ても立っても居られなず、取り敢えずカフェに入った。
前回は修ちゃんの彼女が給仕をしてくれたが、今日は彼女の代わりだろうか、20代前半の男の子が店を手伝っている。
一時間程経った昼前、ランチ目的のお客さんが増え始める。
修ちゃんの彼女は、当分店は手伝わないものと半分諦らめかけていた。
そして、これ以上は私が修ちゃんと鉢合わせするのではと、焦りを感じる頃に彼女が姿を現した。
その背中には赤ちゃんの姿。
どうしても顔を見たい衝動の駆立てられた。
しかし、彼女が、給仕に来る気配はなかった。
焦りを感じていた時、彼女がレジに立った。私は急いで会計に立った。
「可愛いですね、何ヵ月ですか?」
「ありがとうございます。2ヶ月です。可愛いんですけど、夜なかなか寝なくて。」そう言った彼女の顔は疲れていたが、幸せそうに見えた。
「お顔を見せて貰ってもいいですか?」
不躾かとは、思ったが頼んでみた。
彼女は微笑んで
「良いですよ、見てやって下さい。」
と、わざわざこちらに来てくれた。
間近で見る彼の子供は、いつかお義母さんに見せて貰った彼の赤ちゃんの頃の写真にそっくりだった。
あぁ、間違いなく修ちゃんの子供だ。そしてその赤ちゃんから漂う、至福の匂いをもっと感じていたい衝動を抑えるのに苦労した。
私は心がぎゅうっと締め付けられる痛みに耐えながら店を出た。
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