第12話 彼女の懺悔
朝、目が覚めたら、家の中に紗綾さんの姿が見当たらない。
紗綾さんの鞄も、靴も無ない。電話を掛けたが出ない。嫌な汗が頬をつたう。
取り敢えず、修也君を連れて病院へ急いだ。
修ちゃんは相変わらず、目を閉じたまま深い眠りについていた。
ナースステーションで紗綾さんが立ち寄った事は確認できた。
病院の敷地内を探していたら、中庭のベンチに紗綾さんを見つけた。
紗綾さんは、私の顔を見た途端、声を出して泣きだした。
「修一さん、ずっと疲れた顔してたの。夜中眠れずにソファに座っている姿を幾度も見たのに。一緒に住みだしてから、いつも落ち着かない不安そうな顔してた。
いつか彼が壊れるのではないかとの心配していたの。
でも、いつも私達の事大事にしてくれてたから、側にいて欲しくて気が付かないふりをしてたの。もっと早く話合っておけば良かった。」
「修ちゃんは二人の事をとても愛していたと思うの。だから自分が望んだ事だったと思う、ただこの結果は、彼自身予想して無かったんじゃないかなぁ。だから先に逝く準備も出来てないのよ。早々に眼を覚ますわ。その時は、みんなで怒ろう。」
「もしかして、とは思ってた。でも、昨夜有加さんの家に行った時に確信したわ。
修一さんはここに戻りたかったんだって。
もっと早く、無理にでも有加さんのとこに返していれば良かった。」
「紗綾さんが責任を感じることではないよ。きっと紗綾さんが突き放しても彼は二人の側を離れなかったわ。」
「私が有加さんから、修一さんを引き離さなければ、こんな事にならなかった。
私の我儘が招いた結果よ。本当にごめんなさい。」
私は、彼女の後悔とも懺悔ともとれる言葉を聞いた。
「紗綾さん、あなたは修也君という宝物を彼に与えてくれた。
彼は結婚前から子供のいる暖かい家庭が欲しいって言ってたの。これは私には絶対できない事、私は不妊症で子供が望めなかったの。
何度か流産を繰り返し、悲しむ私に不妊治療をやめようと言い出したのは彼だった。私の事を気遣い二人でも幸せだよって、言ってくれたけど。ずっと心苦しかった。」
「だから、修也君の事を聞いた時、心のどこかでホッとしたのよ。
だから私に罪悪感を感じることは無いわ。」
その時、看護師さんが走ってきた。
「渡辺さん!ご主人の容態が急変しました。早く来て下さい。」
走っていく紗綾さんと修也君の背中を見ながら、永遠に修ちゃんを失うかもしれない恐怖で震えて脚が前に出ず、その場に崩れ落ちた。
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