こぼれ落ちる日々

panda de pon

第1話 至福の時

 私はいつもの様に夕方、夕食の支度を済ませ冷えた缶ビールとツマミの枝豆を持ちベランダに腰かける。

行儀は悪いが、ベランダのサッシの腰掛けるのだ。

椅子も買ってみたが、何か落ち着かず、結局サッシが一番しっくりきた。


一年前に購入したのは、築三十年弱のリノベーションマンションだ。

マンション全体をリノベーションをして売り出したので、販売価格が抑えられていた。

低価格、お洒落で綺麗なので、住人は子育て世代が多かった。



 夕方になるとお腹を空かせた子供達の声が聴こえる。元は古い団地なので、昭和のノスタルジックな雰囲気がある。

子供達の声と日暮の鳴き声を聞きながら、ビールを飲むのは至福の時間だった。

 よその家庭の夕食の匂いは、更に幸せな気持ちにしてくれる。


 日が暮れあちこちに灯りが点りつく頃、玄関の鍵が開く音がする。

修ちゃんだ!私は嬉しくなって玄関に小走りで行く。

「お帰り」修ちゃんは少し疲れた顔で小さく笑って「ただいま、有加さん」と言う。

修ちゃんから外の匂いがする。

その匂いは私の知らない修ちゃんの時間を想像させ、少し寂しい気持ちになる。



 修一さんこと修ちゃんと私は結婚して、7年が経つ。今年修ちゃんは36歳、私は38歳。

子供が欲しくて病院も行った、私が妊娠しにくい体質だったようだ。

不妊治療に通ったが、私たちは子宝に恵まれることは無かった。

私達は3度目の流産を経験し、二人で人生を過ごすことを決めた。


子供を諦める前は子供の声を聞いたり、見たりする事が辛かった。

でもいざ、一度諦めると、肩の荷が下りて子供の声心地よいものとなった。

だからこのマンションを購入したのだ。


 修ちゃんと私は夕食べながら、一日の出来事をお互い報告する。お互いの不在を埋めるように。

修ちゃん多くは語らないがいつも会社であった出来事を教えてくれた。

そして、小さく笑って私の話にも耳を傾けてくれた。

私は十分幸せだった。

修ちゃんも幸せだと思っていた。

 

 

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