その4 不穏な気配
<前回のあらすじ>
シェラ達はドーズ連合公国の首都クルスに到着した。
そこで一行は、戦人と只人という激しい身分格差を目の当たりにする。
その後ケイゴの知人ヴィクトリアと出会った一行は、井戸掘り用魔動機の開発に協力した。
【シェラルデナ(シェラ)】(PC、人間/女/17歳):祖国ハーグストン王国再興を夢見る姫剣士。旧臣と祖国再興に向け動き出した。
【パテット】(PC、グラスランナー/男/48歳):流浪の
【サンディ】(PC、エルフ/女/41歳):ガンマンに憧れる
【ジューグ】(PC/GM兼務、リカント/男/17歳):キルヒアの神官戦士。重度のシスコンだが、最近はシェラが気になる様子。
【ケイト】(支援NPC、ナイトメア/女/20歳):キルヒア神官にして
【ノエル・ディクソン】(人間/女/15歳):ハーグストン王国最後の騎士を名乗る少女でベルミア衆の一人。シェラに忠誠を誓う。
【クラミド】(ディアボロ/女/25歳):魔将ディロフォスの娘だったが、戦う能力がないため父に勘当された。シェラに仕えて学問で才を開花させる。
【カンファ・シェルシアス】(人間/男/16歳):シェルシアス公国第三公子。シトラス総督を務める。
【フリーシア・サストレー】(ミノタウロスウィークリング/女/24歳):元シトラス軍“鉄騎”でディロンの養女。現在はカンファに仕える。
【ケイゴ・ラガム】(シャドウ/男/18歳):ラガム海賊衆第十六代頭領。海賊の在り方を変えようとしている。
【ヴィクトリア・ドーズ】(人間/女/20歳):“ドーズの鬼姫”と恐れられる黒ドーズ公。ケイゴとは夫婦漫才を繰り広げる仲。
【トゥンガラ】(リザードマン/男/自称永遠の17歳):ギヨーの海賊親分。おっさん呼ばわりすると怒る。
サンディが改良した井戸掘り用魔動機は、土をかき出しながらゆっくりと地中に潜り込んでいった。
「ほんじゃま、俺はヴィクトリアさんのお手伝いをしますわ」
「邪魔よ」
「しょぼぼん」
すげなく断られてもケイゴは楽しげだ。ヴィクトリアのほうも、さほど嫌そうな顔ではない。
「では、我々は他の場所も見学してこよう。どこに行こうか?」
シェラが言うと、サンディはちょっと考えてから答えた。
「まあ歓楽街に行ってみようか」
まだ日の高いうちから歓楽街は賑わっていた。
「歓楽街は人が多いんだな。一応、経済はまわってるのか?」
「一部でも潤ってればそんなもんだよ。飢饉真っ最中でも飽食してる人もいるとかそんな感じ」
パテットは周囲をきょろきょろ見回しながら言った。
「へっへっへ、姉ちゃん、ちょっと酌をしてくれよ」
さっそく酔っぱらいに絡まれた。
「なんか話でも聞かせてくれるなら、しても構わないけどな」
酔っぱらいの明らかにいやらしい視線を、シェラは一顧だにしない。
(こいつ、この手の悪意に鈍感すぎやしないか?)
ジューグとしては心配になるところだ。
「黒ドーズのヴィクトリアに言いつけてみようか?異国の使者に絡む不届き者ってねぇ!」
ギロリとにらむサンディに、酔っぱらいはたじろぐ。
「いっ!?」
「ああ、私たち、外国の使節団でさ」
「う、うるせえ!下手に出ればつけ上がりやがって!!」
引っ込みのつかなくなったのか、逆切れする酔っぱらい。
「おっちゃんゴメンな! 私が注いであげるからさ!」
「おーおー、良くできた姉ちゃんだな。へっへっへ」
シェラがなだめようとすると、すかさず図に乗る。ある意味大物だ。
「ジューグゥ?いいのあれで、いいのぉ?」
煽るサンディ。ジューグは唸った。
「おい、気安く触るな」
ジューグがシェラの尻に伸ばされかけた酔っぱらいの手をねじり上げる。
「お、いいねいいねぇ、そうでなきゃねえ」
ニヤニヤ笑うサンディだが、しっかりカルネージの銃身を握っていた。
「あぁ!?」
「酔っ払いに喧嘩売る外交使節ってのもどうだかだけど……でも楽しいならOK!」
あてにならないパテット。
「てめえら、ざけ……」
「おいおい、どうした?」
男の声に、酔っぱらいは一瞬硬直した。恐る恐る、振り返る。
浅黒い肌の中年男。ジューグはこの男をどこかで見たような気がした。
「酒ってのは楽しく飲まなくちゃな?」
「あ、しかし……大将」
口をもごもごさせる酔っぱらいに対し、男はサンディをちらりと見た。
「どうせ羽目を外しすぎたんだろ?そっちの嬢ちゃんなんか銃に手をかけてるぜ」
「いいっ!?」
「つまらねえことで大怪我したくないだろ?頭を冷やしな」
「へ、へい……」
酔っぱらいはすごすごと引き下がった。
彼を見送った浅黒い肌の男は、シェラに頭を下げる。
「やあ、すまんねぇ」
「いや、こちらこそ。ちょっと騒がしくしてしまったな。申し訳ない」
(ケイトやサンディにボディタッチだったら、大乱闘確実だったしな)
自分へのボディタッチでも十分大乱闘確実だったことには気づかないシェラ。
「まあお嬢さんがたみたいなのには、ちょっかいを出したがる奴がいるのも分かるがね。見ない顔だが……お客さんかね?」
「ああ、ええと、西国使節団のシェラルデナ・ベルミア=ハーグストンと申します」
「ほう」
男は、わざとらしく驚いて見せた。
「俺は、ホベツ・ラガム。今は一介の穀潰しさ」
「今は、ねぇ」
サンディの目がすっと細くなる。
「もしかして、海賊衆先代頭領の?」
「おや、よくご存じで」
「ケイゴ氏に聞きまして」
「ほう。御無礼を働きませんでしたか?」
「や、特には! 無事こちらまで送り届けて頂いた次第です」
ケイゴの父。なるほど、既視感があるわけである。しかし、二人は『海賊性の違い』から袂を分かったと聞いたが。
その話を聞くと、ホベツは肩をすくめた。
「まあ、誰が割を食うか、という話で。それは蛮族と変わらねえじゃねえか、と言われればそこまでですがね」
「この国の食糧事情は蛮族領からの収奪品が支えてたわけだねぇ」
サンディはしみじみと言った。
「とはいえ、蛮族の海賊頭領が一人のトゥンガラも我々に降りましたし」
「ほう、あのトゥンガラが?」
「トゥンガラのオッサンはぁ……海賊ごとボコりまして」
「ははは、それは剛毅なことで」
「今後交易路が整備されれば、変革は始まります。ホベツ殿もきっと何か新しい役割を見出せるのではないかと思う次第です」
シェラがまっすぐな目を向けると、ホベツは眩しそうな眼をした。
「まぁ……今となっちゃあここから成り行きを見守るだけでさ」
ホベツと別れ、一行は道場街へ足を向けた。
ジューグは、ホベツの真意をはかりかねていた。本気で楽隠居を決め込んでいるのか、それとも。
しかし、彼にとってはそれよりも重要なことがあった。
「シェラ……お前ももうちょっと警戒しろよ」
お前は要人なんだからな……と続けようとしてジューグはやめた。さっきのは要人以前の問題だ。
「無礼な輩には相応の仕置が必要なのだよシェラ」
過激なことを言うサンディ。
「分かった。気を付ける」
道場街では子供たちが元気に修練に精を出していた。
「貧しさから抜ける一番の手だからな」
ケイトはそう言ったが、では多くの大人たちが貧しいままなのはどういうことだろうか。
チャンスこそあれ、やはり成り上がるのは簡単なことではないのだろう。只人の家庭では栄養状態がそもそも悪いということもある。
「どうしたのかね?入門志願には見えんが」
シェラ達に声をかけてきたのは、木刀を担いだ筋肉質なリカント男性。ジューグの見るところ、
彼は藍ドーズのティグリス・ドーズと名乗った。四公家の当主のひとり、ということだ。
シェラが軽く力試しをしたいと提案したところ、彼女以外は散々な目に遭った。
―ダイスボット先輩のせいです―
視察の最後に闘技場を訪れた頃には、日が大きく西に傾いていた。
観衆の歓声と共に演台に上がったのはドワーフの男性。
「人は、平等ではない!」
「何か言いだしたぞ」
いきなりあんまりな発言にドン引きするパテット。
「王侯の家に生まれた者、親の顔すら知らぬ者。五百年生きる者、十年にて寿命の尽きる者。醜い者、美しい者。生まれつき穢れ憑きとなじられる者、様々だ」
歓声が上がる。ジューグは頭を抱えたくなった。そりゃまあそうなのだが。
「だからこそ我々は競い、争い、打ち勝たねばならない!」
ひときわ大きな歓声。
「ダルクレム神殿かな?」
パテットは頬を引きつらせた。
「一応人族国家なんだよなぁ……」
「ま、現実の一端ではあるね」
額に手をやるジューグに、フリーシアが皮肉っぽく言った。
「うん、間違ってはいない。いないんだけど…なんか背後からずっと追い立てられるような嫌な発想だねえ」
「否定はしないさ。確かに現実だし、一つの解だ」
「ただ生き急ぎすぎると選択誤ることあるよねって」
パテットやシェラ、サンディが口々に論評していると。
闘士の入場門が開き、単眼を光らせた人型魔動機が3体入場してきた。
「諸君、この機兵に立ち向かう益荒男はいるか?」
ドワーフの演者の声が城内に響く。
「ドムズヴァーだな」
ジューグが言うと、シェラが席を立った。
「よし、やりに行くぞ!」
「シェルシアス公国代表並びにベルミア臨時政府代表一行、ドーズ親善ため武勇を奉納せん!」
突然の乱入者に驚きと歓声が上がった。演台のドワーフも、大きく目を見開いている。
「こんなものでいいだろ! いつも通り景気よくやろう」
シェラは、同行していたカンファに視線を向けた。
「殿下も日々の稽古の応用ということで、是非」
「は、はいっ」
「【ショットガン】撃つぞォ!」
密集したドムズヴァーにサンディが散弾をばらまき、パテットの終律とケイトの【ファイアボール】が猛威を振るい、上半身を破壊する。
擱座した機体をすかさずシェラが薙ぎ払った。
さすがにそれだけでは倒れてくれないようだ。『咎める閃光』がパテットの目を眩ませる。もっとも呪歌のみの彼にあまり意味はないが。
擱座していないドムズヴァーの蹴りをジューグがシェラに代わって受け止めた。
「ケイト、頼む!」
制御された炎が再びドムズヴァーを焼き払う。次いでサンディの銃弾とシェラの斬撃が飛び、カンファ公子の一撃が最後を締めた。
異邦人たちの鮮やかな戦いに歓声が上がる。
「ジューグ、痛まないか? 大丈夫か?」
「ああ、大したことねぇ」
シェラの声に、ジューグはかぶりを振った。強がりではなく、本当に大したことがなかった。重度の防護点中毒患者である作者のせいだ。
「いつもありがとな」
「気にすんな」
「お見事!」
さっそく、さっき演説していたドワーフが歩み寄ってきた。
「儂は黄ドーズ家のザイル・ドーズだ」
つまりは、ドーズ四公家当主の最後のひとり。
「いやー、これはどうもお騒がせしました。シェラルデナ・ベルミア=ハーグストンと申します」
「なるほど、貴公らが西方の……道理で」
「黒ドーズ青ドーズ黃ドーズ。んでトップが…赤ドーズだったっけかな?」
「黒ドーズがヴィクトリア殿、藍ドーズがリカントのティグリス殿、黄ドーズがドワーフのザイル殿、紅ドーズが連合公のトラッド閣下ですね」
サンディの発言をカンファが訂正した。
「本来は、紅、藍、黄を包括する黒、って意味だったんだろうな」
「全部合わせたら黒になるって事は光じゃなくて色の三原色か」
「黒ドーズが没落気味かぁ」
サンディは肩をすくめた。
「で、ああいう煽り文句して闘技場盛り上げてる?」
サンディが皮肉っぽく聞くと、ザイルは否定はしなかった。
「ドーズはケルディオンの孤児。救いの手などどこにもなかった故な」
「しかして我々は来たわけで。遅いと思われても来ないよりかはずっと良い」
「僕等が救いの手かどうかはわかんないけど、戦うばかりが人生じゃないよ。今まで体験できなかったのならこれから体験すればいいさ」
「言い方を変えれば、時は来た、というわけで」
サンディとパテットの言葉を引き継いで、シェラが言った。
「ほう……それは」
ザイルの目が、きらりと光った。
「ともあれ、歓迎しよう。御客人」
「ありがとう御座います」
「とりあえず一通りまわったかな」
「そうだな!それではザイル殿、夜の宴にて」
シェラ一行を見送ると、ザイルはひとり呟いた。
「御客人、か。さて、吉と出るか凶と出るか……?」
(つづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます