その4 目覚めの時
<ここまでのあらすじ>
アイリスヴィルを探索する一行はドレイクのアルギと出会う。
どうやら、ここは飛空船アイリスの墜落をきっかけに発生した悪夢の牢獄らしい。
アルギと別れた後、酒場で飛空船の船長たちが輪廻に還るのを見送り、一行は探索を続ける。
【パテット】(PC、グラスランナー/男/48歳):流浪の
【サンディ】(PC、エルフ/女/41歳):ガンマンに憧れる
【シェラルデナ(シェラ)】(PC、人間/女/17歳):祖国ハーグストン王国再興を夢見る姫剣士。旧臣と祖国再興に向け動き出した。
【ジューグ】(PC/GM兼務、リカント/男/17歳):キルヒアの神官戦士。重度のシスコンだが、最近はシェラが気になる様子。
【ケイト】(支援NPC、ナイトメア/女/20歳):キルヒア神官にして
【ノエル・ディクソン】(人間/女/15歳):ハーグストン王国最後の騎士を名乗る少女でベルミア衆の一人。シェラに忠誠を誓う。
【ピアナ】(レプラカーン/女/20歳):シトラス出身の元浮民。現在は海中船<ジュノン>操縦士。
【セーラ・ハーグストン】(人間/女/?歳):<大破局>当時のハーグストン王家の姫君でアイリスヴィルに居城を持つ。シェラにそっくり?
【アルギ・ウィンクル】(ドレイク/男/?歳):<大破局>当時、あるものを狙ってセーラに接近したが……ディロンの血縁らしい。
こん、こん、こん、こーん、こーん、こーん、こん、こん、こん。
「何の音だ?演奏か?」
木琴を叩くような音に、シェラは首を傾げた。
「救難信号、かな」
ぽつりと、ジューグ。短音3回に長音3回、短音3回の組み合わせ。いわゆるSOSだ。
住宅の並ぶ狭い道。一定のリズムで木琴を叩いているのは、ちみっこいナマモノ。
「プーカだな」
プーカ。人間の子供によく似た人懐っこい幻獣だ。ウチの卓ではマスコットアニマルの地位を確立している(※主に作者のせい)。
「大丈夫だよな? 牙向いたりしないよな?」
「そこの雀じゃねえんだから……」
シェラとジューグの会話に気づいたのか、プーカがくるり、と振り向いた。
ジューグは思わず我が目を疑う。シェラを幼児化したらこんな感じではないか。
「やほー」
明るく手を振るプーカ。
「よっす!遊んでたのかー?」
シェラが親し気に返事すると、プーカは首を横に振った。
「えまーじぇんしーだよ!セーラちゃん……じゃないね?」
「分かっちゃうかー」
「わたし、セーラプーカだもん!」
プーカは高らかに宣言した。
「またよくわからん存在を……。さて、プーカはここがどういうところか認識してるだろうか」
サンディはあきれ顔でセーラプーカを観察した。
「……謎ですね」
ノエルは少々困惑気味にセーラプーカを見る。
「プーカの中には、心を通わせた相手の名前をもらって、その分身に成りきる奴がいるらしいぞ」
と、ジューグ。
「ということは……私たちにも同じようなプーカができるかもしれないのか!」
―もちろんウチの卓のオリジナル設定なので真に受けないように。この設定の発案者はシェラPLだったりしますが―
「でもお互いに真似っこ上手だな! 色々教えてくれないか!」
「いいよッ」
「ここはどこかとか、好きなものとか、今日についてとか、色々!」
「かなしいゆめだよ?」
直球だった。
「君は既に亡き者と見てよいのかな?」
「うん、おばけー」
サンディの問いに応えて、セーラプーカ。
「おふねがおちるとき、セーラちゃん、これはわるいゆめだっていったんだ」
「ああ、要するに一人の夢じゃないんだねきっと」
パテットは頬杖をついた。ここは、セーラを取り巻く人々(蛮族含む)の夢の集合体なのかもしれない。
「なるほどな」
「そしたら、こわーいおばさんが『それなら、たのしいゆめにしましょう』って」
「は、それ誰?」
パテットは思わずずっこけかけた。
「誰だ! 怖いぞ!?」
「まけんからぶわーって出てきたの」
「魔剣の魂?」
「ははぁ、それが原因だったか……」
「そしたら、わたしも、へいたいさんも、ばんぞくさんもみんなゆめのなか。でも……」
セーラプーカは木琴を見上げた。
「セーラちゃん、さいごに『め・を・さ・ま・せ』って口をしたの。だから、ここでだれかおこしてくれるのまってた」
「……あー!さっきの、救難信号ですか」
ピアナが口をはさんだ。
「つまり僕等は目覚まし時計代わりに呼ばれたと」
「ま、何の因果かわからないけども」
サンディはシェラを見た。
「彼女はハーグストン王家の最後の一人だ。きっとぴったりな役回りになるんだろう」
「そうなの?」
「残念だけど今のところそうなんだ」
シェラはうなずいた。
「私は、シェラルデナ・ベルミア=ハーグストン。セーラたちの悪夢は私たちが目覚めさせる。私も真似っこ上手だからな! 見習ってセーラの所に辿り着くぞ!」
「うんっ!」
「まってー!」
一同が振り向くと、猛然と走ってくる二匹目のプーカ。
その顔を見てシェラたちは二度びっくり。
「……アルギ、だよな?アレ」
「あんなんまで真似とんのかい」
あんぐりと口を開けるパテット。
どうやら、300年間声をかけるタイミングがつかめず、ずっとスタンバっていたらしい。
アルギプーカ?はセーラプーカにごめんねごめんねとペコペコ。
すると、セーラプーカはアルギプーカ?の頭をナデナデ。
そして、二匹は手をつなぎ、どこかへと消えていった。
「……その分身に成りきる」
ジューグは、さっきの自身の発言を繰り返した。プーカたちが正確に主人をまねっこしているとすれば、つまりそれは。
「有り得たかもしれないエンディングだねえ……プーカだけど」
しみじみと、パテット。
「その習性に狂いが無いなら、あれがきっと幸せな終わり方なんだろうな。しかし……」
シェラは一瞬口ごもる。
「眼から汗出そう……」
「……俺もだ」
「そういや、港の労働者と公園の罪人は輪廻に還してないね」
サンディが言った。
察するに、労働者たちも罪人も、飛空船の墜落に巻き込まれたからこそ、この牢獄にいるのだろう。
「まあそうすると、誰もいなくなりそうだし」
「街ごと消えたらそれはそれで嫌ちゅん」
「セーラをどうにかしない限り街は消えないでしょ」
むしろ夢を見ている人物が多いほど良くない気がする、とサンディは言った。
「みんな目の前のあったであろう日を生きてるんだな」
しみじみと、シェラ。
「僕等だって雀だって生きてるんだ、こんなとこにいつまでもいてたまるか」
「よし。城門を目指して城に居るであろうセーラに会いに行くぞ!」
「残りの人たちは、輪廻に還さなくていいの?」
「ひとまず門を見てからだ!」
城門の前に立っているのは門番と思しき兵士、3人。
「おや、セーラ様」
「だいじょうぶだねなにもしてないよね」
棒読みするパテット。
「ご苦労! 異常は無いか!」
胸を張って問うシェラに対し。
「異常ですか……へへへ、ありますよ。目の前になァ!」
ゲラゲラと笑い、めきめき大きくなる兵士。
「ハイレブ化したオーガウィザード!」
「コイツらがそもそもの原因!」
ジューグに応えてサンディが銃を抜く。
「なんでそんなのがここにいるかはもうどうでもいいね」
「一緒に死んだからに決まってんでしょ」
まぁ、ハイレブオーガウィザード3体ごとき、今のシェラ達の敵ではなかった。
魔動機に頼りきりになっていた大破局期の人族には、飛空船内の白兵戦で撃破するのは難しかったのかもしれない。
「やっぱ、残りの人たちも放っておくにはいかないでしょ?」
後始末をしながら、サンディが言った。
「そうだな。広場に戻ろう」
広場に残されていた罪人たちは悶え苦しんでいた。彼らをなだめて輪廻に還すと、さらに港へ。
「おや」
「セーラ様、御用ですかい?」
「私から皆に、礼を伝えに来た!」
港の労働者たちを呼び集めると、シェラは言った。
「皆、アイリスヴィルの港を守ってくれてありがとう。皆のおかげで、今日という日を迎えることができた」
背後ではパテットが呪歌【サモンフィッシュ】を奏でたりしているが、魚が集まってくる様子はない。ここの性質を考えれば、まあ当然だが。
「長かっただろう。だが、ついに明日を迎える時が来た。本当はこんなことを言うのもらしくないのかもしれない」
人々は神妙な面持ちでシェラの話を聞く。
「それでも私は……ハーグストンの者ならば、前に進んで欲しい。私も進む、だから共に進んで欲しいんだ」
「……」
「さあ、皆。目を閉じてくれ。きっと見えると思う。懐かしの在りし日が、長らく抱き続けていた思いが……」
シェラは言葉をいったん切り、目を見開いた。
「でもこの海風に当たれば、本当の自分が見えるはずだ」
「セーラ様……」
「さあ、私が号令しよう。皆、船出の時だ! 過去に別れを告げ、明日に、光に向かって進む時だ!もう後悔はしなくていいんだ。皆で行こう」
「……」
港の人々は、寂しげに笑うと崩れ去っていった。
「これで疎開船の乗員は全員還ったかな」
ただ一人を残して。
人影の消えた街を進む一行。
美しい小さな城に足を踏み入れても、一行の行く手を阻むものなどいない。
城の奥深くに、彼女はいた。
「おや、お客かな」
シェラの顔を認めると、彼女はにんまりと笑う。
「おお、このような美女が世界に二人もいるとは驚きだな!」
「……もういいでしょ、街の人は皆目覚めた」
腕組みをして、サンディ。
「何にせよ、目を覚ませと言ったのはセーラ、貴女自身だとプーカが言っていた」
「……私がそんなことを言ったのか?」
「あ、なんか悪い予感が当たったような?」
ここにいるセーラはいつの時点のやつなんだろうねえ、とパテット。
「そう、貴女の願いを私たちは叶えたい」
とシェラ。
「私は、シェラルデナ・ベルミア=ハーグストンだ。ここはありし日のアイリスヴィルのようだが、貴女の事をもう少し知りたい」
二人の姫君が対峙する。
「……いいだろう。私はセーラ・ハーグストンだ。察しの通り、ここは在るべき姿のアイリスヴィルだ」
「私たちもこの街を見てきた。色んな人が、色んな想いで自分を一生懸命やってた」
『そう。でも、あなたたちはそれを壊してしまった』
「……」
どこからともなく響いてくる何者かの声に、セーラは体をびくりと震わせた。
「そういう見方もあるかもしれない。でも、私たちは向き合い受け止めてきた」
『現世は苦しいことばかりでしょう?』
「否定はしない」
謎の声に答えたシェラに対し。
「いいや」
「こいつマジでそう思ってるのがタチ悪いでちゅんね」
まあグラスランナーらしい回答ではあるな、とジューグはパテットと雀を眺める。
「困難はあるだろう!でも皆、生ある限り、己の役割を探り歩むんだ。立ち止まる時もある」
シェラルデナは顔を上げ、セーラをじっと見た。
「アルギにも会ったぞ」
セーラは目を見開いた。
「こんな指輪を持ってたよ」
サンディはアルギの遺した指輪を取り出した。
「その指輪は……」
「アルギは後悔していた。こんなことをするはずではなかった、とね」
「なんか話聞いたらちょっとボタンの掛け違いがあった様子でして、はい」
「不器用な男だったけど、貴女の思う通りの人だと思うぞ」
『全く、余計なことばかり』
謎の声の主が、ゆっくりと姿を現す。白い髪、白い肌の美女だが、背丈はセーラの2倍以上。明らかに人ならざる存在、魔神だ。
『永遠に停滞した幸せのアイリスヴィル。何がいけないことなのかしら?』
「その幸せとやらもずいぶん綻びがあったように見えるが?」
ジューグが魔神を睨みつける。
「あら、そうだったかしら?」
白い魔神は白々しくもくすくすと笑う。仮初めだけにせよ、魔神が真っ当な幸せなど与えるわけもない。
「一つ言えることがある。与えられた夢は……どこまでいっても虚妄だ。自分の眼で閉じて瞼の裏に映る景色を見ることに、ワクワクするんじゃないか」
シェラルデナは剣を抜き放った。
「与えられて留まるなんて牢獄だ。魂でさえ輪廻を巡る。死者も生者も永久に留まりはしないんだ。そうだろう!」
『そう。それなら……仕方ないわね』
大して残念そうでもない声で、魔神-エゼルヴは言った。
パテットの終律【獣の咆哮】に続いてサンディがショットガンを放つ。しかし、当たったのは胴体だけのようだ。
ジューグが突入して【パラライズミスト】を使い、シェラが魔力撃で斬りつけるが……
「硬っ!」
「……すまない」
集中を欠いたのか、ケイトの【ファイアボール】は不発。
「お返しね。焼いてあげるわ」
エゼルヴはせせら笑い、後衛に【ファイアーボール】返しを行った。
「グラランをなめんなー」
パテットのみ精神抵抗に成功し、無効化する。
白い魔神は魔刃をシェラとジューグに振り下ろす。さらに尻尾をシェラに打ち付けるが、これはジューグがかばった。
「へっ」
「無理するなよジューグ」
シェラは再び魔力撃を胴体に斬りつける。ジューグは【キュア・ウーンズ】をパテット以外にばらまいた。
サンディが【クリティカル・バレット】を放ち、ケイトは【エネルギー・ジャベリン】に切り替え、頭部と胴体に撃った。抵抗されるも、確実に胴体に損傷を与える。
「ていうかなんでブリザードやサンダーボルトを使わなかったのだろう」
パテットの余計すぎる一言。そりゃ小手調べに過ぎなかったのだろう。
「では、リクエストにお応えするわ」
「私は頼んでないぞ!」
シェラが悲鳴交じりに抗議する。
「【サンダー・ボルト】!」
激しい電撃の矢が全員に飛んだ。
「し、死ぬっ」
「ぐぬぬ、かなりきついなこれ」
サンディとパテットが激痛に耐える。どうやら今回はパテットも抵抗しきれなかったようだ。
胴体の斬撃はシェラの代わりにジューグが受け、尾の攻撃はシェラに当たる。
「きっついけど、次の奴の魔法には時間がかかる。【キュア・ハート】!」
ジューグ自身もかなりのマナを消費し、仲間を癒す。
さしものエゼルヴもしばらくは同じ規模の魔法は撃てないはずである。尾の攻撃が当たるたびに少しずつマナが回復するのでぐずぐずはしていられないが。
「じゃあそろそろ胴体にトドメを行こうか」
パテットの【獣の咆哮】とケイトの【ファイアボール】でようやく胴体が崩れ落ちる。
「ぐうっ」
「てやあっ!」
シェラがエゼルヴの頭に渾身の斬撃を放ち。
「終わりだ!」
サンディが(
「……終わった、のだな」
「……ああ」
目を開けたセーラに、シェラがうなずく。
「いやー僕等にとってはこれからだなあ」
「夢の牢獄はおしまい、さ」
「アルギの落とし物、渡しておこうか」
シェラがサンディに目配せし、サンディが例の指輪を渡す。
「……ありがとう。私にも、譲れない一線があった。これを渡すわけにはいかなかったのでな。だが、貴女にならいいだろう」
セーラが自身の手にはまった指輪を外す。
「私たちが守れなかったハーグストンの民を、今度こそ守って欲しい」
「……」
「では、さよならだ。皆が待っている」
「今度は……幸せにな」
セーラが指輪をシェラに託すと、彼女と周囲はぼやけ、消え去っていった。
「……もう一度滅んだなんて、言えなかったな」
シェラがぽつりと言った。
気づくと、一行は大きな魔動機の残骸の中にいる。天井は一部穴が開き、青い空が見えていた。
外に出てみると、すぐ近くに海中船ジュノンが浮かんでいる。
「ああ、これがあの魔航船ね」
「良かった! 帰れるぞ!」
「ちょっと調べてみない?」
サンディの提案に応じて残骸の中を探索すると、見覚えのある淡く輝く球体を発見する。
「魔動コア……」
飛空船アイリスのコアに違いない。
「すると、ここに墜落したのか」
シェラは遠くに見える陸地を眺める。彼女たちがあの陸地-ケルディオン大陸にたどりついていれば歴史はどうなっただろうか。
「<ジュノン>航行に支障ありません。いけます!」
「そういや海中船のテストだったねぇ」
<ジュノン>のハッチから顔を出したピアナに、パテットは肩をすくめた。
「じゃあ戻るか。あのコア、どうする?」
ジューグが視線をシェラに向けた。
「資金が調達出来たら、魔航船を建造して飛ばしてみるのもいいかもしれないな」
「この船に組み込めば飛べたりするかな。海底戦艦ジュノン!」
サンディがいたずらっぽく笑う。
「海中から空中まで…ロマンだねえ」
「ドリルつければ地中にも行けるちゅん」
「……それ、巨大怪獣と格闘することにならないか?」
他愛のない話をしながら、一行はジュノー市へと帰還した。
(第08話につづく)
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