その6 ドーズ内乱

<前回までのあらすじ>

 シェラ一行とシェルシアスのカンファ公子は、ラガム海賊衆の若き長ケイゴの訪問を受ける。

 彼の狙いは、蛮族領の中に孤立したドーズ連合公国をシェルシアスとの通商再開によって豊かにし、極度の格差社会に改革をもたらすことであった。

 しかし、ケイゴたちの行動を支持する連合公トラッドにドーズの支配階級である戦人勢力は危機感を覚えていた。

 ドーズ連合公国公宮殿の夜会にて、ジューグは突然黒ドーズ公ヴィクトリアの妹ウィステリアにクーデター計画支持を要請される。

 シェラ達としてはこのクーデターは到底受け入れられない。しかし、どう処理すべきだろうか。




【シェラルデナ(シェラ)】(PC、人間/女/17歳):祖国ハーグストン王国再興を夢見る姫剣士。旧臣と祖国再興に向け動き出した。

【パテット】(PC、グラスランナー/男/48歳):流浪の吟遊詩人バード。典型的グララン。『雀を名乗る不審鳥』を飼っている。

【サンディ】(PC、エルフ/女/41歳):ガンマンに憧れる銃士マギシュー。溺れたのは黒歴史。

【ジューグ】(PC/GM兼務、リカント/男/17歳):キルヒアの神官戦士。重度のシスコンだが、最近はシェラが気になる様子。

【ケイト】(支援NPC、ナイトメア/女/20歳):キルヒア神官にして真語魔法使いソーサラー。ジューグの異母姉。


【ノエル・ディクソン】(人間/女/15歳):ハーグストン王国最後の騎士を名乗る少女でベルミア衆の一人。シェラに忠誠を誓う。

【クラミド】(ディアボロ/女/25歳):魔将ディロフォスの娘だったが、戦う能力がないため父に勘当された。シェラに仕えて学問で才を開花させる。

【カンファ・シェルシアス】(人間/男/16歳):シェルシアス公国第三公子。シトラス総督を務める。

【フリーシア・サストレー】(ミノタウロスウィークリング/女/24歳):元シトラス軍“鉄騎”でディロンの養女。現在はカンファに仕える。


【ケイゴ・ラガム】(シャドウ/男/18歳):ラガム海賊衆第十六代頭領。海賊の在り方を変えようとしている。

【ヴィクトリア・ドーズ】(人間/女/20歳):“ドーズの鬼姫”と恐れられる黒ドーズ公。ケイゴとは夫婦漫才を繰り広げる仲。

【ホベツ・ラガム】(人間/男/36歳):ラガム海賊衆前頭領。息子に頭領の座を追われ、クルスで隠居している。

【ザイル・ドーズ】(ドワーフ/男/91歳):黄ドーズ公。人は競い、争って打ち勝つべきと説く。クーデター側。

【トゥンガラ】(リザードマン/男/自称永遠の17歳):ギヨーの海賊親分。おっさん呼ばわりすると怒る。

【トラッド・ドーズ】(人間/男/26歳):ドーズ連合公。紅ドーズ公を兼務する。

【ウィステリア・ドーズ】(人間/女/10歳):ヴィクトリアの妹。姉思いのあまりクーデターに加担する。





「ああやだやだ脳筋ども」サンディは吐き捨てた。

「正直この件は僕等だけで出来る範囲を超えてるよ、ぶっちゃけ冒険者のやる事じゃない」

 パテットは頭を抱えた。

「まあ既に皆の立場が冒険者の範疇から外れかけてるちゅん」不審鳥が言った。


―祖国再興を志すシェラがいる時点でもう、単なる冒険者じゃいられないんや!―


「忘れちゃいけないのが、私たちの依頼元の事だ。シェルシアス公国の利益にそぐわないだろ? カンファ殿下には一報入れるべきだ」

「あちこちに情報漏らしまくるのは賛成。密告と取られる余地も無いくらい盛大にしゃべっちゃおう」

 パテットが両手をパタパタ振った。



「なんと、そのようなことが」

「そりゃ厄介な話だね」

 カンファは唖然とし、フリーシアは苦笑いした。フリーシアのことだから、『力づくで片が付くならそれでいいんでないかい?』ぐらいは思ってそうだが。

「ベルミアとしては、相互の国益に反するものだと捉える次第で」

「私も同感です」

 カンファは頷いた。

「それに戦闘員優位の思想は先細りしかしないしね」

 サンディは言った。


 シェラがヴィクトリアも交えた四者(シェラ、カンファ、ウィステリア)の会談を提案し、カンファも同意した。

「じゃあヴィクトリアのところには私がいこうか?」

「なら、サンディ。カンファ殿下と一緒に向かってくれるか? フリーシアとケイトも」

 シェラはパテット、ジューグ、ノエルを伴ってウィステリアのところへ向かった。




 サンディたちはやや手間取ったものの、ヴィクトリアの姿を見つけた。ケイゴと二人で話し込んでいたようだ。

「いかがなさいました?」

「少し話いいかな」

「ええ。このヘボ海賊がいても大丈夫ですか?」

「しょぼぼん」

 このやり取りが、二人にとっては一種の惚気なのだろうか。


「……この国の経済状況はあんまり良くない。外貨収入源になり得る絹の生産こそあるものの、食料自給の問題はやっぱり重大でしょう?」

「ええ」

「そのために蛮族領から収奪する必要に迫られてた。そうでしょ?だからこその、戦人優位的な……でもそのままでは良くないと二人は思ってる」

 二人の顔をじっと見つめて、サンディは続けた。

「ケイゴは蛮族領からの収奪は結局現地人族への負担にしかならないと断じ、ヴィクトリアは国内での食糧生産拡充を目論んでいる。私達への接触もその一環なはず……そしてそれは連合公、紅ドーズの意向と見ていい?」

「そっすよ」

「領内のことはともかく、国外との交渉を勝手に進めるわけにはいきませんから」

「そうすると面白くないのは戦人側のはず。戦いに赴かなくても食っていけるようになれば……?」

「戦人の立場が危うくなる、と」

 ケイゴが肩をすくめた。

「ええその通り。で、ヴィクトリア、そちらの家が本来は連合公だったそうだね」

「ええ。でも、まあ昔の話よ」

「ちょっと耳を貸して……そして、絶対声をあげないで、冷静に」

 怪訝な顔をするヴィクトリアに、サンディが接近する。周囲に第三者がいないか注意を払ったうえで、彼女の耳に唇を寄せた。


「ウィステリアがうちのジューグを呼び出してね、クーデター計画を打ち明けたらしいのよ。ヴィクトリアを連合公にするって」

 さすがのヴィクトリアも絶句した。

「……あの子ったら」

「藍ドーズに黃ドーズも同調するとかそういう話しぶりだったそうだよ。まあ、積極的に加担するかどうかはわからないけども」

「……非常にまずいわね」

「今ドーズの四公家はこの街に全員いる。先手を取られたらまずいよ。どうする?」

 サンディは、ヴィクトリアの意向を今一度確認した。

「むろん、看過できないわ」

「とはいえ、派手に立ち回って国内に不安を与えるのも控えたい、でしょう?」

 ヴィクトリアはうなずいた。


「ケイゴ、そっちの先代はこのクーデター計画に関わってると思う?」

「……たぶんね。まいったな、こりゃ」

 ケイゴは珍しく渋い顔をした。

 サンディは、先代ことケイゴの父ホベツに遭遇したことを話した。

「『今は』ただの穀潰しって…そういうことかよと。ケイゴ、あんたにゃ海賊衆を抑えて貰う必要があるようだね」

「あーいよ」

「ヴィクトリア、連合公の身柄はこちらで確保しておくべきだと思うけども穏便な方法あるかなぁ?」

「何も知らせずに……というのはやはり難しいかしら」

「フリーシアに色仕掛けしてもらうとか?」

「こらこら、あたしをなんだと思ってるんだい」

「乳がデカい」

 真顔で言うサンディ。


―でもまあイラスト(シェラPL謹製)を見ると、比較対象(他の女性陣)がおかしいだけでサンディも十分……―


「まあ真面目な話。カンファ公子と会談とか。交易品目の打ち合わせとかどう?」

「なるほど。その方向で行きましょうか」

 カンファが頷く。





 一方、シェラたちはウィステリアの部屋の前までやって来た。

「いや、これ結構面倒な役割のような……」

「ばっさり断ると関係が切れちゃうちゅん」

「関係を切らずに時間稼ぎするってかなりしんどいちゅん」

 パテットがぼやくと、不審鳥たちが口々に応じた。

「その辺は任せておけ! パテットも色んな見識で合いの手入れて欲しい」

「後は向こうが返答をせかしてくるのをどうやり過ごすかだなあ」

「とりあえず、接触だ」

 シェラはドアをノックした。



「あら」

「改めまして。何やら重要なお話があるとかで、お伺いした次第です」

「ええ。詳しくは聞いてないの?」

 ウィステリアは、シェラの背後にいるジューグに向けて冷ややかな視線を送る。

「まあその辺は微妙な話なので改めて確認いただきたく」

「いつになく慎重なパテットであった、ちゅん」

「齟齬があってはいけませんので、まずはお伺いしようと」

「なるほどね」



 ウィステリアがジューグに語った内容を繰り返すと、シェラルデナは相槌を打った。

「なるほど。黒ドーズ家の復権を模索されていることや、戦人の地位を懸念されていることはよく分かりました。その思案は自らお考えに?」

「いいえ。ザイルおじ様よ」

 子供らしい素直さか、それとも絶対に成功するという自信ゆえか。ウィステリアは即答した。

「因みに、その計画っていつ実行に移すおつもりで」

 おずおずとパテットが言った。

「未明よ。言ったじゃない。有力者が集まった今がチャンスって」


「で、具体的にどうするつもりか聞いたほうがいいちゅん?」

「下手に踏み込んだらやる気あるみたいに思われるのやだなあ……とは言え聞かないと話が進まないし」

 不審鳥とパテットがぼそぼそ話すのを尻目に、シェラは質問する。


「一つお伺いしたいのは、義挙が成功したとして……その後はどのような構想を?」

「ラガム群島を経由して、デュアリアス地方中原に進出するわ」


 ドーズ連合公国と蛮族が支配するデュアリアス地方中原の間には死霊の森と呼ばれる森林地帯がある。なお、ラガム群島はその沖合に位置する。

 死霊の森はアンデッドの領域となり果てているので、ドーズとしては切り開いて農地にすることも中原への通行路にすることもできなかった。つまり、デュアリアス中原へは海路で侵攻することとなる。


「つまり思いっきり拡大路線ですな」

 パテットに視線を向け、ウィステリアは答えた。

「ええ。御爺様がなしえなかった悲願」

 かつて、イーグル4世は蛮族領を征服しようとして志中途に倒れた。


(しかし、爺さんが失敗したことを、どうして成功できると思うんだかな)

 むろん今回は、前回なかったシェルシアスとベルミアの支援を期待できるが……あるいは、参戦すれば領土の分け前をやろうと言うのかもしれない。


「軍を動かすとあれば、食糧は平時よりも多大な消費を行うもの。その算段はおありで?」

「現地調達しつつ、足りない分はそちらから買えばいいでしょう?」

 現地調達。ジューグは頬をぴくつかせた。気軽に言ってくれやがって……

「いやあ攻め込まれた先の人達がホイホイ売ってくれるとは思えないんだけどなあ……」

(売ってくれなきゃ略奪ってことだぜ、パテット)

「最後に確認させて頂きたい。ザイル氏はどちらで指揮を? どの道ご挨拶の必要があるので」


 ウィステリアはシェラのその言葉を正確に理解しなかった。それゆえに「港よ」と即答した。

「分かりました。ちなみにベルミアとしましては、友邦シェルシアス公国との国益を鑑みて、カンファ殿下の意見を参考にするつもりです」

「寄らば大樹の陰とはいうわね」

「なかなか格言に精通されているご様子で。ただ今一度想像してみて頂きたい。御国、いや万国共通に言える事……それは、国の真なる権力者は誰か、ということです」

「……?」

 ウィステリアは首を傾げた。


「正統性が大事ってことかな?」

「正統性ちゅても要は主だった面々が支持するかどうかってことちゅん」

「スズメにしては的を射た答えだな。要は正統性を支持し、容認する者は誰かということだ」

 ここでシェラは、どうやって合流するか決めてなかったことに気づく。

(サンディたちはこっちに来てくれるだろうか……通話のピアスを渡しておけばよかったな)


―段取り、大事!―


「そういやジューグの奴、シェラとケイト向けに通話のピアス買ってるくせに渡してないでやんの」

 サンディも連絡手段の不備を思い出し、肩をすくめた。

「おや、そうだったのか?」

「傍から見てる方がよくわかるもんさ」

 ケイトとフリーシアのやり取りを横目に、サンディはカウボーイハットに手をやった。

「あ~、どうしようか。ここで一気に行動起こされたら面倒なんだよね」

 サンディはカンファに目を向ける。

「公子殿下、とりあえずケイト、フリーシアと連合公をティダン神殿に連れ出して。ケイゴは海賊衆の抑え。私とヴィクトリアがウィステリアの部屋に行く」




 無造作にドアを開けたサンディは、まずジューグを見た。

「ジューグ、ケイト向けの通話のピアス買ってたでしょ確か。貸しなさいよ、渡すから」

「お、おう」

 口ごもるジューグ。

(おお、さすがはサンディ。よくみてるなー)シェラはうなずいた。


「ウィステリア」

「……姉様」

 黒ドーズ公家の姉妹は、お互い少々気まずげに対峙する。


 首謀格のザイルが港にいると聞いて、サンディはしまった、と言う顔をした。

「あ~、ケイゴに海賊衆見といてって言って見送っちゃったなぁ」

「彼の事だ。自勢力を固めにかかるんじゃないか? そこは任せても良いだろう。実力も問われるってやつだ」

 だといいけど……と言いつつ、サンディはウィステリアに声をかける。


「お嬢ちゃん、戦になれば必ず誰か死ぬ。死ななくても戦えない体になる場合も多い。君たちは命じるだけかもしれないけども、そのために多くのこの国の民衆を犠牲にする覚悟はあるのかな?」

「戦人というのはそういうものでしょう?」

 ウィステリアは首を傾げた。

『我々は命を張っている。だから只人よりも優遇されるべきだ』それはそれなりに一理ないわけもない。だが……


「……そうじゃないんだ」

 シェラはかぶりを振った。

「その戦人が戦うために何が必要?考えたことある?武器や防具…だけじゃ不適当。食料、それもまた不十分」

 サンディは腕組みをした。

「あらゆるもの、生きることに必要な全てが、戦うためには必要なんだよ」

「それらは全て、只人がいなければ手に入らないモノよ」

「そもそも戦自体も戦うだけではできないしね。兵隊が食べるものは誰が運ぶの?戦いで綻びた軍服は誰が繕うの?只人だって一杯動員されるんだよ」

 サンディとヴィクトリア、そしてパテットの言葉を追って、シェラは続ける。

「そう。戦人の反乱の後に待っているのは、只人の反乱なんだ。例え蛮族との戦の最中でも、それは突然に起こる。彼らは自由を叫び、君主や貴族の首を晒すだろう。過去、それはしばしば共和国家の始まりになってきた」


 ウィステリアは、周囲が皆反対であるらしいことに気が付いた。諸外国が支援しない、どころか敵に回りかねない勢いではクーデターの成功もおぼつかない。

「……だったら、戦人はこの後どうなるっていうの?」

「戦人ではなくなることが望ましい、と私は考える」

 もう内政干渉もあったものではないが……あくまでも私の考えだとシェラは言った。

「豊かに生きられるようになれば、戦人も只人も無いでしょ」

 戦い以外で国を豊かにすることはできる、とサンディは説いた。甘芋、深井戸による水源確保、絹織物の輸出。

 当のヴィクトリア自身がそちらに賭ける気であると知って、ようやくウィステリアは兜を脱いだ。


「……でも、おじさまが止まるとは」

「あのおっさんじゃなぁ……」

 まあ説き伏せるのは無理だろうな、とジューグも思う。

「それは剣で語りあうことになるだろうな」





 ウィステリアを連れてカンファ、ドーズ公と再合流する。

 しかしどうしたものか。内戦になるのは避けたいところである。

「手っ取り早く済ませるには密かに強襲かけて黃ドーズのドワーフとっちめる、ってのが案の一つだけど」

 サンディは腕組みをする。

「藍ドーズがどこにいるかわかんないけど、ウィステリア知らない?」

「うーん……道場街かも?」

 ウィステリアは自信なさげに言った。

 藍ドーズのティグリスを切り崩せればクーデター側にとって打撃になる。シェラ達は昼間の道場に急いだ。




 道場からは灯りが漏れていた。

「はいはいお邪魔しますよ~」

「こんばんは。日中はお世話になりました」

「ん?どうしたこんな時間に」

 藍ドーズ公ティグリスはサンディとシェラをいぶかしげに見た。

「こんな時間に道場に明かりをつけて何を待っていらっしゃる?」

「何を待つわけでもないが……あるとしたら今夜辺りか」

「ええ今夜、そう未明」

 サンディは歌うように言った。


「さてここで問答を一つ。戦わなくても食っていけるようになれば、戦人はどうしていくべきか?」

「全く戦いがなくなりはしまいが、その多くは道を変えねばなるまい」

「それはそう、この国では戦人のほうが立場的には上なれど、戦が減ればその数は多くは不要になる。そして食料配分などの物資の流れも大きく変わるだろうね」

「それを良しとしない者も多いだろうが……流れに抗おうとすれば、大きな争いになる」

「この国は今、岐路に立っている」

 サンディはティグリスをじっと見つめた。

「藍ドーズの長たるあなたは、どういう道を進むべきだと思っている?」

「流れが変わったならば、その流れに上手く乗っていくべきだ」

「なるほど、無理やり流れを引き戻すつもりはないと」

「ああ」

 ヴィクトリアとシェラが安堵のため息をもらす。

 ティグリスも反対に回れば、クーデター派の柱は黄ドーズのザイルのみ、ということになるが。




「……っと」

 地面に降り立った若き海賊の長は、よろめいた。

「直接対決じゃ、親父殿にはまだまだ及ばないねぇ」

「……ったくよぉ。変えられるとでも本気で思ったか?」

「ケイゴ!」


 港に向かう道で一行は父子相克の場に出会った。

 ケイゴの父、先代頭領のホベツは息子を睨みつけた。

「お前の肉は、皮は、骨はなんでできている?お前だけじゃない。俺も含めてラガム海賊衆は三百年そうだった!」


「生きてるかーケイゴー」

「一命は取り留めたぜ!」

 ヴィクトリアに抱き起されたケイゴは、サンディに向かって親指を立てた。


「現実ってもんがわかっちゃいないガキは、女のおっぱいでも吸ってな!」

「あ、そりゃ魅力的な提案かも」

「全く」

 ヴィクトリアは呆れ半分に軽くコツンとゲンコツを落とす。

「先細りする未来にしか進めない能無しめ」

 銃を抜くサンディ。

「この国にあるものの価値に気付けない無能、無駄に血を流そうとする凡愚にはもう進むべき道はないぞ」

「むう、先手を打たれたか」


 声の主は夕方に出会ったドワーフ。クーデターの首謀者黄ドーズ公ザイル。

「だが、勝てば良いのだ。出でよ我がヴァリアント!!」

 大型の人型魔動機ヴァリアントが姿を現した。それを護衛するかのように、戦人部隊が展開する。




「先代頭領殿は俺が」

 ホベツにはティグリスが対峙した。

「この期に及んで敵対してるこいつらに慈悲はない」

 サンディが無慈悲なショットガン連射を行うと、戦人たちが次々と倒れ伏す。

「う、うわああああ!もうだめだああ!!」

 情けない声を上げて逃げ出すものもいる始末。

「今更後悔しても遅い!」


「士気が崩壊しているな。ケイト、右手の集団を焼いてくれ」

「わかった」

 ケイトのファイアーボールで焼かれ、残りの集団も逃げ腰になる。

「ええい、やらせはせんぞ!」

 シェラの脚部への一撃を、ヴァリアントは紙一重で回避。


「食らえ!ヴァリアントビーム!!」

 頭部からの光線がパテットを襲う。

「いたた……」

 久々のダメージにパテットも額に汗する。

 続いて胴体の初撃はジューグが受け止め、二撃目はシェラがかろうじてかわす。

 そこで気が緩んだが、脚部の蹴りは食らってしまった。


「くっそ、脚はちょこまか動いて狙いにくい」

 意外にも軽快なヴァリアントの脚部。サンディの【クリティカル・バレット】もかわされてしまった。

「パラライズミストを使う」

 ケイトが【エネルギー・ジャベリン】を撃つ。

「俺は……シェラとパテットを治療するか」

「ん! ありがとな!脚狙うぞ! 魔力撃!」

「ぐおおおお!?」

 シェラの渾身の一撃が脚部にひびを入れる。続く支援攻撃が脚を砕いた。


「ぬううっ!まだだっ!」

「まだいけるな」

 ケイトはヴァリアントビームを何とかしのぐ。


「全員胴体に集中攻撃だ!」

 胴体の攻撃を耐えたシェラはヴァリアントの中心部位である胴体への攻撃を指示した。胴体が止まれば頭部も機能を停止する。

【エネルギー・ジャベリン】と弾丸、終律とおまけに【フォース】が飛び……

「いくぞ! 魔力撃!」

「お、おおおおっ!?」

 擱座したヴァリアントの胴体をシェラの一撃が粉砕した。




「ちっ、俺も焼きが回ったか!?」

 敗北を悟ったホベツの反応は速かった。あっという間に闇夜に姿を消す。

「あっちのおっさんには逃げられたねえ」フリーシア。

「そうか、決着というわけにはいかないか……」

「叛乱軍に告ぐ、今からでも遅くないから原隊へ帰れ。抵抗する者は全部逆賊であるから射殺する。お前達の父母兄弟は国賊となるので皆泣いておるぞ」


―サンディ、それ最終的にアカン奴―



 首謀者のザイルはじめ主だったクーデター派は逮捕され、クーデターは失敗に終わった。

 黄公家が潰れ、残るドーズ四公家のヴィクトリアとティグリスも領地返上を申し出たが、連合公は衝撃が多すぎると半分返上に改めさせた。

 皮肉にも、守旧派の弱体化によって改革も促進されることになるだろう。

 かくして、ドーズ連合公国の危機は去り、シェルシアスおよびベルミアとの間に友好通商条約が締結された。


「これでシルクの寝間着に肌着が手に入るぞ!」

 ホクホク顔のシェラ。

「そっちかよ」

「私もほしいなー」

 サンディも口をはさむ。


 もちろん、歴史的に一番重要なのは、デュアリアス地方とフェルライザ地方との交流が再開したことである。

 シェラ一行の眼は、デュアリアス西部唯一の海港、ギヨーに向いた。




(つづく)

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