春と夏の境目で少女がついた優しく切ない嘘の物語

当てのない旅をしている謙人は、ありすと名乗る麦わら帽子の少女と出会い、「春渡し」というお祭りに参加するよう請われる。目的のない旅をしている謙人は、その願いを受け入れるのだが、その時すでに不思議な世界に足を踏み入れていたのかもしれない。

不思議なことはいくつかあるが、もっとも不思議で印象的なのは、喋る黒猫ミーシャの存在だ。物語の要所要所で登場し、印象的な台詞を残す。
ミーシャを筆頭に個性的な村人たちと心を通わせる中で、謙人は自分にかけられた願いにも似た期待のようなものを感じていく。

夏の寒村が舞台ということでノスタルジーを感じずにはいられない。それだけでなく、時にコミカル、時にミステリアスな登場人物との掛け合いが微笑ましく温かい気持ちになれる。その一方で「最後の夏」というキーワードが所々で登場し、夏の終わりを感じ、物寂しい、不安な気持ちにもさせられる。

そして「最後の夏」は訪れる。

村の人々との触れ合い。
うそつきの麦わらがついた嘘の真相。
謙人とありすに隠された真実。

それらが容赦なく読者の感情を揺さぶる。

この物語は、切なさと同時に温かく包み込むような読後感を生んでくれる。

夏にピッタリの物語……ですが、どの季節に読んでも麦わらの嘘が心に響くこと間違いなし!

是非是非ご一読あれ!

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