喋る黒猫とうそつきの麦わら

作者 香澄 翔

27

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★★★ Excellent!!!

平穏とワクワクが同居する田舎の空気、可愛らしいキャラクターたち、散りばめられた意味深な謎が紡ぎ出す、温かくも切ないストーリー。万人受けの作品だと思います。

主人公の謙人は、廃線となった線路を辿っていくだけの旅をしている途中、麦わら帽子に眼鏡をかけた三編みの少女、有子と出会う。魔法が使えるという彼女は、喋る奇妙な黒猫を引き連れていた。そんな不思議な少女と猫、一人と一匹に出会った謙人は、とある村で行われる「春渡り」なる祭りに参加することとなる。

可愛らしいキャラたちの、ほのぼのとした掛け合いと、懐かしい田舎の空気が織り成す空気に浸りながら、しかし上手く仄めかされる謎をどんどん追ってしまいます。そうしてたどり着いた終盤にて明かされる真実は、ひどく胸を締め付けるものですが――どこまでも温かい優しさと切なさ、有子と謙人が歩む道の眩しさが、こちらの心を癒やしてくれます。

大事に抱えていたいものが詰め込まれた宝箱のようであり、甘酸っぱさと苦さが凝縮された柑橘のようでもある物語。ぜひご堪能ください!

★★★ Excellent!!!

 物語は、主人公である謙人(けんと)が、あてのない旅をしている場面から始まります。
 彼が線路を歩いているとき出会ったのは、麦わら帽子を被った少女、有子(ゆうこ)と、どういうわけか人間の言葉を話す黒猫、ミーシャでした。
 有子は謙人に対して、「私の村に来ませんか?」と告げるのですが……? 



 本作の魅力は、「ほのぼのとした人間関係」、「どこかノスタルジックな雰囲気漂う世界観」など様々あるのですが、ゆったりしたヒューマンドラマだと思っていると、たびたび入り込んでくる「異物 (謎)」に、はっとさせられます。

・なぜ、ミーシャは人間の言葉を話すのか。
・なぜ、有子は「ありす」という呼ばれ方にこだわるのか。
・春渡しという祭りが行われる意味とは?
・村人がたびたび話す、「これがきっと最後の夏だから」という言葉の真意は?
・そして、なぜ二人は出会ったのか。

 等々。これらの謎は、わかりそうでわからない、という絶妙な匙加減をもって、物語の中に配置されていくのです。こういったミステリー要素こそが、むしろ一番の魅力でしょうか。
 これにより、ちょっと不穏な空気も漂うのですが、かといって重くなることは決してなく、

「有子って言わないで。ありす。ありすって呼んでよぅ」
「はいはい、ありすね」

 というミーシャと有子(ありす)の軽快な掛け合いや、『巨乳好き』『ロリコン疑惑』など、村の人たちと交わされるお約束のやり取りが、上手く緩和してくれるのです。

 ほのぼのとしたコメディと、見えそうで見えない謎。二つの要素に牽引されてページをめくり、たどり着いた『春渡し』の当日。

 ここから始まる伏線の回収は、もはや圧巻の一言。全ての謎が一本の線となり収束していく様に、感嘆するほかありませんでした。
 有子がついていた嘘のあまりの優しさと切ないラストに、きっと涙することでしょう。
 ボー… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

当てのない旅をしている謙人は、ありすと名乗る麦わら帽子の少女と出会い、「春渡し」というお祭りに参加するよう請われる。目的のない旅をしている謙人は、その願いを受け入れるのだが、その時すでに不思議な世界に足を踏み入れていたのかもしれない。

不思議なことはいくつかあるが、もっとも不思議で印象的なのは、喋る黒猫ミーシャの存在だ。物語の要所要所で登場し、印象的な台詞を残す。
ミーシャを筆頭に個性的な村人たちと心を通わせる中で、謙人は自分にかけられた願いにも似た期待のようなものを感じていく。

夏の寒村が舞台ということでノスタルジーを感じずにはいられない。それだけでなく、時にコミカル、時にミステリアスな登場人物との掛け合いが微笑ましく温かい気持ちになれる。その一方で「最後の夏」というキーワードが所々で登場し、夏の終わりを感じ、物寂しい、不安な気持ちにもさせられる。

そして「最後の夏」は訪れる。

村の人々との触れ合い。
うそつきの麦わらがついた嘘の真相。
謙人とありすに隠された真実。

それらが容赦なく読者の感情を揺さぶる。

この物語は、切なさと同時に温かく包み込むような読後感を生んでくれる。

夏にピッタリの物語……ですが、どの季節に読んでも麦わらの嘘が心に響くこと間違いなし!

是非是非ご一読あれ!

★★★ Excellent!!!

暑い夏の空の下、廃線となった線路の上を一人旅する少年、謙人(けんと)。あてもない旅。目的を探すのが目的の旅。

そんな彼が出会う、自身を魔女だと、ありすだと名乗る少女、有子と言葉を喋る黒猫、ミーシャ。
彼女の願いで、村の祭り『春渡し』に参加することになる……

底抜けに明るくちょっぴり天然な有子に、基本冷静に答える謙人、皮肉屋だけど優しい黒猫ミーシャが繰り広げる会話がテンポよく面白いのですが、ここに個性豊かな村人や有子の両親が加わるとその面白さは加速します。

なのにどこか幻想的で、不思議な空気を感じさせられます。読み進めていくと、明るく楽しいからこそ、時折感じる小さな違和感、疑問が頭の隅に居座っていきます。でもその違和感は悪意とか嫌なものではなく、すごく優しいものじゃないかなと、私は思っています。

現時点で物語は進行中ですが、謙人の旅の目的、そして有子や村人たちが時々見せる寂しさ。それらを全て知ったとき何が待っているのか、不安と希望いっぱいで読んでいます。

是非とも一度読んで欲しい、お薦めの作品です。