喋る黒猫とうそつきの麦わら

作者 香澄 翔

彼女が麦わら帽子を脱ぐとき、二人の本当の旅が始まる。

  • ★★★ Excellent!!!

 物語は、主人公である謙人(けんと)が、あてのない旅をしている場面から始まります。
 彼が線路を歩いているとき出会ったのは、麦わら帽子を被った少女、有子(ゆうこ)と、どういうわけか人間の言葉を話す黒猫、ミーシャでした。
 有子は謙人に対して、「私の村に来ませんか?」と告げるのですが……? 



 本作の魅力は、「ほのぼのとした人間関係」、「どこかノスタルジックな雰囲気漂う世界観」など様々あるのですが、ゆったりしたヒューマンドラマだと思っていると、たびたび入り込んでくる「異物 (謎)」に、はっとさせられます。

・なぜ、ミーシャは人間の言葉を話すのか。
・なぜ、有子は「ありす」という呼ばれ方にこだわるのか。
・春渡しという祭りが行われる意味とは?
・村人がたびたび話す、「これがきっと最後の夏だから」という言葉の真意は?
・そして、なぜ二人は出会ったのか。

 等々。これらの謎は、わかりそうでわからない、という絶妙な匙加減をもって、物語の中に配置されていくのです。こういったミステリー要素こそが、むしろ一番の魅力でしょうか。
 これにより、ちょっと不穏な空気も漂うのですが、かといって重くなることは決してなく、

「有子って言わないで。ありす。ありすって呼んでよぅ」
「はいはい、ありすね」

 というミーシャと有子(ありす)の軽快な掛け合いや、『巨乳好き』『ロリコン疑惑』など、村の人たちと交わされるお約束のやり取りが、上手く緩和してくれるのです。

 ほのぼのとしたコメディと、見えそうで見えない謎。二つの要素に牽引されてページをめくり、たどり着いた『春渡し』の当日。

 ここから始まる伏線の回収は、もはや圧巻の一言。全ての謎が一本の線となり収束していく様に、感嘆するほかありませんでした。
 有子がついていた嘘のあまりの優しさと切ないラストに、きっと涙することでしょう。
 ボーイミーツガール特有の甘酸っぱさと、ミステリーのような謎解きとが一緒に楽しめる本作。ぜひ、お手に取ってみてください。青春恋愛モノが好きな方と、ミステリーが好きな方に特にオススメします。

 有子が麦わら帽子を脱いだそのとき、二人の本当の意味での旅が始まるのです。

 謙人と有子の未来に、幸多からんことを──。

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