彼女の声は彼だけが知っていて、彼の声を彼女はよく知っている

歌手になる夢を諦めて普通の会社員となった奏翔は、琴音という少女との約束を忘られないでいた。
けれど、音の変わってしまったギターでは彼女との約束を果たせそうにない。

『音楽』や『歌手になる』という部分を変えると、誰もが感じたことのある失望感から始まるこの物語は、どこか寂しげだが、奏翔の中に残る琴音がかつて描いた夢の象徴として、一筋の光となって存在感を放っている。

誰だって夢を抱くけれど、ほとんどの人が諦めてしまう。本当は諦めたくないのに──、だ。
この物語は、奏翔を通じて、もう一度夢を持つ勇気とその大切さを思い出させてくれる作品だ。

この物語に触れた日は、私も、愛用のベースたちをいつもより丹念に手入れしてしまった。(最後まで読んでいただければ、なぜこのような行動を取ったかが分かるかと)

夢を諦めたことがある人はもちろん、今も追いかけているという人にもお勧めしたい作品。

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