『忌み子』と呼ばれる魔法使いの少女リルと、剣士の少年フレッド、二人の旅路を辿る物語です。
まだ幼さの残る少年少女は、なぜたった二人で旅をしているのか。そこに、この物語最大の秘密が隠されています。
リルの一人称視点、そして敬体で綴られる文章が優しく丁寧です。
同時に、世の人々の『忌み子』に対する冷たさも淡々と描き出していきます。
ふんわりしているように見えて、どこか達観している。
年齢に似合わない精神性を持つリルは、いったい何者なのでしょう。
魔法の設定が緻密で惹き込まれます。
世の理が解き明かされる時、リルの背負う大きな運命と哀しい覚悟も明らかになります。
タイトルの真の意味を知った瞬間、胸を衝かれたような気持ちになりました。
世間一般の幸せが手に入らなくとも、二人で一緒にいるから、二人なりの生き方がある。
あらすじにある通り、これは『後悔を辿る物語』でした。
でも、二人が辿ってきた道の先にも、まだ道が続いていました。
新たな旅の目的が、明るく輝く希望にも思えます。
心地よい読後感。
爽やかで、温かい気持ちになれる素敵な物語でした!
忌み子と呼ばれる赤髪の少女リルは、剣士フレッドとともに旅に出る。
その名前の通り忌み子が忌避される世界にあって、リルはどこか達観したところがあり彼女から悲壮感は感じない。大人でも怖気付いてしまうような魔物を目の前にしても冷静に対処し、時にフレッドと協力して撃退だってする。歳のわりに落ち着いたリルではあるが、魔法のこととなると年相応にはしゃぎ可愛らしい一面を見せる。はしゃぎ過ぎて周りが見えなくなるきらいはあるが……。
そんなリルの目線で淡々と語られる旅の目的は不明だ。しかし、目的が不明でも行く先々で出会う人々との交流によって、お互いにほんの少しずつ成長し、関係を深めていくリルとフレッドを見ているのはとても心地がいい。
魔法の設定やキャラクターの特徴が立っていて、グイグイと物語の世界に引き込まれていく。
そして、やがて明かされるリルの背負った運命と旅の目的を知った時、「なるほどなぁ。だからこの子はこうなんだ」と妙に納得した。
忌み子という被差別的な生まれであるリルの目を通して見る世界は、どのように映るのか。是非ともその目で確かめてもらいたい作品。
【物語は】
”気”で満たされた世界。
そして気とは何であるのか、その説明から始まっている。
この世界では”気”というものがとても大切であり、人を含める生き物はそれを利用することができるのだ。この物語は、人間と魔物が存在する世界で、魔法使いとして生きる少女の旅を描いている。その旅の目的とは一体なんだろうか?
【登場人物の魅力】
魔法使いである主人公は少し心配になってしまう部分もあるが、性格が素直であり、一所懸命な印象がある。そして彼女と一緒に旅をしている男の子は、しっかり者で現実主義。性格や気質などのバランスの良い二人であると感じた。
何故、二人だけで旅をしているのか。
その理由はとてもシンプルだ。
だが、まだ何か謎があるようにも感じてしまう。
主人公はこの世界では、忌み子と呼ばれる存在。話しを読み進めていくと、昔よりは扱いが随分マシではあるが、完全に差別がないわけではない。
しかし主人公は一緒に旅をするフレッドのお陰なのか、とても明るく見える。調合をする日と普段の時の、寝起きの良さが違うなど、魔法が大好きだということが分かりやすく、可愛らしい性格だと感じた。彼女はきっと、表に出さないだけで、何かを抱えているに違いないとも思う。
この物語の面白さの一つに、主人公の優秀さがある。一見ふわっとしているように見える部分もあるが、魔法使いとしてはかなり優秀。
旅を続けるためには、宿代や食事代などを稼げなければならない。当然のことだが、その能力があるからこそ、子供二人だけで旅が続けられるのだと納得がいく。実際どのように稼いでいるのかも丁寧に描かれており、その内容からは納得する部分が多い。
【世界観・舞台・物語の魅力】
この物語は優しい世界でもあるが、混沌としている部分も当然ある。子供二人で旅をしている主人公たちにとっては、危険がつきもの。
そんな中、情報を集めつつ旅をしているようだ。
一話の前後編では、どんな風に旅を続けているのか。また、この世界でのエチケットなども知ることが出来る。この物語の設定は、とても面白い。
調合の部分では設定が細かく、説明文という形ではなく、主人公の行動描写などで作り方が明かされていく。
ある花の調合の場面を用いてどんな属性があるのか、どのような魔法がこの世界に存在するのかも、垣間見ることが出来る。
【差別とリアリティについて】
多様性や差別において見られる、リアリティと世界観の絶妙なバランス。これがとても素晴らしい。
忌み子とは恐らく、差別を受ける存在である。現実世界にも差別は存在するが、全ての人間が差別的な意識を持って生きているわけではない。
この物語の中でも、主人公に対し暴言を吐く人物はいる。しかし一方で、彼女の実力を認め、他の人に紹介をしてくれるような人物もいるのだ。
人間は自分に害がなければ、差別意識が前面に出ることはない。害と言っても一概に、何かをされるとは限らないが。
そういう部分において、この物語に出てくる人物たちは、とてもナチュラルであり、人間らしいと感じた。
【この物語の見どころ】
この物語は魔法を中心として細かい設定がなされており、忌み子であることも活かされている。もちろん二人で旅をすることに、意義も意味も感じる物語だ。主人公の一人旅では成り立たないと感じた。すなわち、必然性で成り立っている物語だと言えるのではないだろうか。
優しい世界観でありながら、人が人を疑う世界。それは主人公が忌み子だから疑われているのか、魔法使いだからなのか、それとも子供だからなのか。これについては、読了部分ではまだ判断がつき辛い。
この旅の中で主人公とフレッドには、信頼し合い、互いを必要としていると感じる部分がたくさんある。二人の絆を感じる物語だ。
二人で旅をしている理由は序盤に明らかにはなるが、旅の目的はまだ明らかにはなっていない。主人公の抱える秘密とは一体なんなのか?
あなたもお手に取られてみませんか?
”人を疑う”というモチーフは、通常ならあまり良い展開を期待できないものです。しかし、この物語は違う。それさえ活かされている。例えば、”対策”として面白く感じてしまう部分もある。
果たして、この旅の終わりには、何が待ち受けているのでしょうか?
ぜひ、その目で確かめてみてくださいね。お奨めです。